「THE STROBO SCOPEの皆さんです!!」

バンド名をコールされて、俺たち四人は、舞台へと上がった。

太陽が少し西に傾きはじめていて、薄オレンジ色のきれいな光が、ヨットハーバーの水面にゆっくりと揺れていた。

去年よりもさらに大勢の観客達が、期待を込めた眼差しで俺たちを見つめる。

「去年よりも、もっと、もっと素晴らしいライブにしよう!」
俺は葵海にそっと語りかけた。

「う、うん……わかった」
葵海は、ようやく事情が飲み込めたようだ。

鉄太が、ドラムのスティックを高々とかかげ、音を鳴らし始めた。

葵海と、直哉と、鉄太と、そして俺……
お互い無言の呼吸で合図を送る。

「YEAH YEAH YEAH YEAH YEAHーー!!」

透き通ったボーカルと、重低音、ドラムの軽快な音、そしてギターのサウンドがピッタリと合わさる!!

「どうしたのなんて聞かれても 言えないことだってあるんだよ」

葵海は自分で作った詩をメロディに乗せ、楽しそうに歌いはじめた。

すべては、ここから始まった。
俺たちの初めてのオリジナル曲『単純な感情』

葵海が書いた歌詞に俺がメロディを乗せて。1日で曲が出来た、なんてみんなには言ったけど、ほんとはあのレコードでやり直しをして三ヶ月かかった。

そんなことは、今となっては少し恥ずかしい、でもいい思い出だ。

君のことが好き……
ただそれだけの、シンプルでひたすらに単純な感情……

もちろんこの曲が出来た時はすでに、葵海とはお互い、両想いだったんだよな。

でも葵海と一緒に「やり直し」をしなかったら、そんな感情にも気がつかなかっただろう。

そんなことを考えながら、葵海と視線を絡ませ合う。

「伝えたくて でも言えなくて どうすればいいの? ただ君が好きなんて単純なのに!!」

鉄太のドラムの音が響き渡り、そして、止んだ。

観客席からは、たくさんの拍手が送られる。

葵海はホッとした表情で、俺の方をチラりと見た。

もうーーいきなりなんだから、まったく何考えてんの?
とでも言いたげな表情。
でも、その顔は、とても満足そうだ。

プレゼントは、もう一曲あるよ。
俺はそう思いながら、ギターのイントロを奏でた。

えっ!?
という表情で、葵海が自分のマイクの方に向き直る。

「好きだよ って君の言葉 ウソみたいに嬉しくて」
「まるで 違って見える 昨日までの景色も」

そして、俺のエレキギターのリズミカルなサウンド、葵海の軽やかなアコッスティクギターの音色、直哉のベース音、鉄太のリズムが、お互いに最高の調和を奏でる!

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葵海がいるだけで、今まで当たり前に思っていた景色が
その一分、一秒が、かけがえの無いものに思えてくる。
今のこの瞬間……時間が止まればいいのに!

そう思った去年のセトフェス。
こうしてまた、葵海と、みんなでライブが出来るなんて、夢みたいだ。


「何度もたどった時間 二人で巻き戻したレコード 君を守りたいんだ」
葵海と視線を絡ませ、想いを歌にのせる。

「もしも願いかなうのなら」
葵海もそれに応えて、想いを返してくれる。

「一人になんかしないから」

「ずっとその手つないで いて」

最後のギターのソロを俺が奏で、鉄太の力強いドラムが、それを締めくくった。

演奏の余韻がしばし、夕暮れのヨットハーバーに響き渡る。


そして、会場は今日一番の、まさに割れんばかりの拍手に包まれた。

俊太郎叔父さん、葵海のお母さん、弟。
こちらを見て、手を振ってくれた。

里奈は少し涙ぐんでいる。

そして、ヒューーーンと夕焼けに染まる空を切り裂くような音。

打ち上げ花火の、弾ける音。

去年よりも、多目にしといたから。
このために、バイト頑張ったからな。

「陸……ありがとう……」
葵海が瞳を潤ませて、俺の方を見た。

「ハッピーバースデー、葵海!」


もう、やり直しはできない。

これからも失敗したり、傷付いたりもするんだろう。

それでも、少しずつ、進んでいく。

ただひたすら、前を向くことの大切さを、君が教えてくれたから。

だから、葵海といつまでも、歩んでいきたい。


最後に特大の花火が、刹那、夕陽に映える水面に、舞った。







-君と100回目の恋 二次創作-

-fin-