秋山真之が世界の最先端の兵術を学ばんとアメリカに留学した時代のわずか50年前のアメリカは、まだこんなんだった、19世紀半ばの裏アメリカ物語。
コーマック・マッカーシー『ブラッド・メリディアン 』。
その物語の概ねのところは一言で書ける。
インディアンを虐殺して頭皮を剥ぎ(酋長クラスは生首も)、インディアンに悩まされている自治体に買い取らせる賞金稼ぎの一隊、その極悪非道の日々を描いたものである。
と、これだけです。
テーマはこうだ。見渡す限りの広大な荒野や砂漠のなかの、ほんの豆粒ほどでしかない人間たちは、なぜこんな行為に及ぶのか、そしてなぜこんな世界なのか。このテーマが様々なシーンでカタチを変えて繰り返される。
頭皮剥ぎ隊の参謀格・ホールデン判事(ジャッジ!)のキャラクターが見物だ。冷血無比でありながら、知性にあふれ、森羅万象に通じ、一隊の行為の論理的な裏付けを語り、世界を哲学で捉える、無毛の大男。「地獄の黙示録」でマーロン・ブランドが演じたカーツ大佐を彷彿とさせるホールデン判事。
「地獄の黙示録」といえば、原作は(ベトナムではなく)アフリカの奥地が舞台のジョゼフ・コンラッド『闇の奥 』。『ブラッド・メリディアン』はその西部劇版ともいえるだろう。
そしてなんといっても文体が圧倒的。自然の描写や人間の描写がカンマ(読点)なしでグイグイしかも高密度で繰り広げられるのだ。これが本当に凄い。
「動植物も含めた自然のなかの人間、それがこの物語の世界なのだから——、当然こういう文体になるわけさ、フフフ」とコーマック・マッカーシーが言ったかどうかは知らないが(たぶん言ってませんでしょう)、でもそういう意図であるのは、明白。
おまけに台詞は地の文だし、心理描写もない。「自然の心理描写を書けない以上、当然こういう文体に——」(以下同)、そういうわけです。
黒原敏行さんの訳もまさに全力投球。
というわけで、リーダビリティという言葉があるが、この小説はそんな言葉をはるか超えたところにある。したがって歯応えは、固いです。
ただしそこには、強烈に過酷で残酷で荒々しいなんとも幻想的で魅力的な世界が広がっている。未読のみなさんにはぜひこの世界を味わっていただきたい。
一昨年翻訳刊行で読む者に衝撃を与えた終末小説『ザ・ロード 』を超えるスーパー大傑作です。
【Book Japan】はポイントの設定もおトクです。さらにこの1月はお年玉ポイント・キャンペーン実施中。ぜひご利用ください。
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その物語の概ねのところは一言で書ける。
インディアンを虐殺して頭皮を剥ぎ(酋長クラスは生首も)、インディアンに悩まされている自治体に買い取らせる賞金稼ぎの一隊、その極悪非道の日々を描いたものである。
と、これだけです。
テーマはこうだ。見渡す限りの広大な荒野や砂漠のなかの、ほんの豆粒ほどでしかない人間たちは、なぜこんな行為に及ぶのか、そしてなぜこんな世界なのか。このテーマが様々なシーンでカタチを変えて繰り返される。
頭皮剥ぎ隊の参謀格・ホールデン判事(ジャッジ!)のキャラクターが見物だ。冷血無比でありながら、知性にあふれ、森羅万象に通じ、一隊の行為の論理的な裏付けを語り、世界を哲学で捉える、無毛の大男。「地獄の黙示録」でマーロン・ブランドが演じたカーツ大佐を彷彿とさせるホールデン判事。
「地獄の黙示録」といえば、原作は(ベトナムではなく)アフリカの奥地が舞台のジョゼフ・コンラッド『闇の奥 』。『ブラッド・メリディアン』はその西部劇版ともいえるだろう。
そしてなんといっても文体が圧倒的。自然の描写や人間の描写がカンマ(読点)なしでグイグイしかも高密度で繰り広げられるのだ。これが本当に凄い。
「動植物も含めた自然のなかの人間、それがこの物語の世界なのだから——、当然こういう文体になるわけさ、フフフ」とコーマック・マッカーシーが言ったかどうかは知らないが(たぶん言ってませんでしょう)、でもそういう意図であるのは、明白。
おまけに台詞は地の文だし、心理描写もない。「自然の心理描写を書けない以上、当然こういう文体に——」(以下同)、そういうわけです。
黒原敏行さんの訳もまさに全力投球。
というわけで、リーダビリティという言葉があるが、この小説はそんな言葉をはるか超えたところにある。したがって歯応えは、固いです。
ただしそこには、強烈に過酷で残酷で荒々しいなんとも幻想的で魅力的な世界が広がっている。未読のみなさんにはぜひこの世界を味わっていただきたい。
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今年、これを超える本はあるのだろうか。早くも2010年のベスト本と断言せざるを得ない本が登場してしまいました! (BJ塚本)
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