格差社会である。
就活だ、婚活だと、すべては格差社会のなせるわざ。この方面の自己啓発・ビジネス本はいまが盛りだ。

この際、貧乏でもいいじゃん、日本人ならそれでも清々しく生きられるんじゃないのか、とばかりに文学者中心に貧乏話をたっぷり披露する、岡崎武志さん『あなたより貧乏な人』は、そんな世のなかにあって一服の清涼剤。貧乏話って、(当事者じゃないからね)妙に心温まるのは、これ否定できません。だから、成功者の話は鼻持ちならないのが多いけど、貧乏話は飽きない。あとがきに書かれていたように、志ん生、高田渡の逸話も読みたいぞ。


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貧乏つながりのつもりなどまったくなく読んだのだが、辻村深月『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』、格差小説であった。しかも素晴らしい出来。
東京の大企業に勤めている男を「エリートだ」と何も迷いもなく断じるシーンがあるのだか、ここまできたか、と、そういう感触なのか、の感があり、思わず「就活」という言葉がアタマに浮かぶ。
「就活」がうまくいかなかったら、次は「婚活」だ。
「モテる」「モテない」がいま、価値基準のなかで大きな位置を占めているが、なるほど、この言葉は、上のクラスへの上昇志向(貧乏から金持ちへ、との言い換えも可能)を意図として含んでいるのであり、だからこの時代のキーワードとなっているわけだ。ということも、実によくわかる小説だ。

大した学歴もなく、手に技術を持っているわけでもなく、正社員ではなく、実家が金持ちではない、美人とはいえない、したがってモテない「女」。そして小説の語り手はほぼその逆であり、ふたりは幼なじみ。この両者の葛藤が、物語の推進力となる。

もうひとつ。この両者の母娘の関係。たぶん、すべての母娘に、その母娘だけに特有の愛憎関係があるのであろう。この小説において、ひとつの究極が描かれる。母娘関係は永遠のテーマのようでもあるが、いまのパラサイト社会だからこそのテーマでもある。ちなみに『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』というタイトルには、母の娘への思いが込められていて、それが数字であるだけによりいっそう胸に迫る。

著者・辻村深月が三十歳を前にした、いまだからこその小説とされているが、それに頷きつつ、登場人物たちの描き分けの見事さなどは、とても二十歳代とは思われないというのが実感だ。
この年齢の働く女性たちに寄り添う作家といえば津村記久子が思い浮かぶ。辻村深月の場合は、いくつかの謎とその解決が用意されているし、読後、苦い味が残るしで、その持ち味は随分異なる。ただ三十歳前後のとくに働く女性たちに大きく響く物語であるということでは共通する。山梨の地方都市を舞台にしてそこで繰り広げられる格差物語は、よりリアルな最新形といっていいだろう。
この作品がたとえば直木賞の候補になってもちっとも驚きではない。それくらいの見事な作品。 (BJ塚本)

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