雑司ヶ谷がえらいことになっている。単なる住宅地と思っていたのだが、とんでもない。そこでは血で血を洗う殺戮が繰り広げられていて、商店街の単なる個人商店のおじさんやお寺のお坊さんだって、裏では相当ヤバいことに手を染めているらしい。
というわけで、まるでモーニング連載の「ディアスポリス 異邦警察」(こっちもえらいことになってる。伊佐久の兄貴、本当に死んじゃったの?)を地で行くようなバイオレンスに満ちた雑司ヶ谷なのである。
樋口毅宏のデビュー作『さらば雑司ヶ谷』。
雑司ヶ谷に生まれ育った者たちによる、衝撃の地域限定・東京ローカル・ハードボイルド&バイオレンス小説だ。
9月18日掲載の杉江松恋さんによる新刊チェックのなかの一冊としてピックアップされているので、物語の概要などは、そちらもぜひチェックしてください。不要と思われる人部が出てきたり寄り道もいくつかあったりでもっとシェイプすればさらにカッコよくなったのに、といううらみは残るが、それをカバーして余りある面白さに満ちている。
一度読んでしまったらアタマにこびりついて離れない、情け容赦ないバイオレンスシーン、セックスシーンがバンバン出てくる。杉江さんによる128ページのセックスシーンを必ず読んで、という指摘だが、これは、本当にそのとおりで、読んでいて目が点になった。どひゃーである。思わず3回読み直したくらい。たぶんこの手のシーンでは今年これを超えるものはもうないだろうという凄まじさです。
かなり入り組んでいる全体のストーリーの一方で、主人公の心の奥底には地元・雑司ヶ谷への愛があり、このシンプルなモチベーションが全体のなかで妙にアンバランスで可愛いい。ヤンキー文化と通底している感覚があって、ローカル性が強調されればされるほど、破天荒なバイオレンスとの落差が拡大するという、おいしい仕組み。
その一方で記憶に新しい北京オリンピックのネタを逆手に取るところなど、考え抜かれたヒネリ技も光る。
後書きによれば、続編もあるらしい。またしても雑司ヶ谷が滅茶苦茶なことになるのだろう。雑司ヶ谷といえば鬼子母神だが、現実の鬼子母神は、あくまでのんびりとした佇まい。この落差、やっぱり凄い。 (BJ塚本)
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