というわけでエイミー・ブルーム『リリアン』(新潮クレスト・ブックス)。なぜリリアンつながりかというと…8日のブログで書いた平野啓一郎『ドーン』のヒロインは、共和党の副大統領候補の娘にして宇宙船「ドーン」のクルーであり、その名も「リリアン・レイン」だから、であります。たはっ。
8月7日にBook Japanで三浦天紗子さんが高く評価しているとおりですが、エイミー・ブルーム『リリアン』、実にいい。内容はまさにその書評を読んでいただきたいのですが、1920年代のアメリカで、当初、英語もおぼつかないユダヤ人女性が、金もなく、ニューヨークからシベリアを目指す旅のなんと過酷なことか。汽車のないところでは、自らの足でただひたすら歩いて・歩いて・歩き続ける。アタマにシラミ、靴ずれした足は半ば腐り、空腹を抱えながらも、歩いて・歩いて…。
著者エイミー・ブルームは実話に基づいてこの物語をつくった、と解説に書かれていて、その実話もやはり女性だそうだ(その女性の名前が、そもそもリリアン)。リリアンの壮大な旅は、子供を思う親の気持ちから始まっているのだけど、あとはもう女の一念としかいいようのないところへ到達する。
全編を覆う、リリアンの生き続けようとする逞しさは、この困難のなかにあって、信じ難いほどの濃密な官能性まで放ち、つまりこの物語は女でなければ成り立たない話である。ちなみに、えげつなさもかなりなもんです。
小竹由美子の訳もあるのだろうが文章もいい。冒頭の一行を紹介しましょう。
いつだってこんな具合。つまり、困っている人間同士がいちばんいい仲間になるということだ。
この、一行をあえて二行にしたかのような、素直に読むことを拒否するとも捉えられる文章はこの後も頻出し、やがて小さな歩幅で一歩ずつしか進むことのできないリリアンの歩みに重ね合わされる。そして苦心惨憺でたどり着いたラストの描写に、読む者は胸を打たれ、そこに至るまでのリリアンの歩みを思い起こさずにはいられなくなる。
今年の女小説というと山田詠美の『学問』が(とりあえず現時点)まず筆頭に挙げられそうですが、海外ものにもぜひ注目してください。『リリアン』、おすすめです。 (BJ塚本)
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