先週3日、東急文化村主催の第19回ドゥ マゴ文学賞が発表され、平野啓一郎『ドーン』が受賞と決まった(今回の選者は島田雅彦)。ドゥマゴ『ドーン』…なんだか語呂がいい。
去年の反動か本の価格を抑えようということか、今年は大部の本がずいぶん少ない。そのなかで村上春樹『1Q84』がぶっちぎり。ちょっと待って、『ドーン』もあるぞ、と受け取りたい。
『ドーン』は、日本人宇宙飛行士・佐野明日人を主役とした、2033年の近未来小説。ちょうど本物の宇宙飛行士・若田光一さんが日本人として初めて国際宇宙ステーションに長期滞在していた時期でもある7月の刊行で、その用意周到さに舌を巻かされた。明日人は若田さんと同じくNASAのミッションに参加し、はるか遠い火星への往復の旅に出る。
舞台はアメリカ(あともちろん宇宙船内と日本が少し)。で、アメリカにおいては大統領選が繰り広げられている。オバマ後という前提も踏まえた上で、やはり共和党と民主党の争い。大きな争点となっているのが、戦争である。戦争を継続するか否か、ついこの間の大統領選そのままの展開なので、若田さんと併せて、掴みは抜群にスムーズ。
これらの大枠のなかで描かれるのは、現在でもかなり進行しているということの延長線上にある、インターネット(監視)社会における人間の存在の危うさ、だ。そこから逃れて物語を紡ぐことのできる唯一の場所として、この際だからと宇宙空間が用意されたという見方もできるわけで、なんとまあ、仕掛けが大きい。
著者・平野啓一郎の、広大なスケールの発想力と、それを現実の物語として細部を積み重ねて表現するだけの緻密さ・バイタリティを兼ね備えているということの、またしても証明。
この日本人離れした作家性は、いかにも日本を感じさせる自分およびその身のまわり小説の対極である。こういう作家がいないとね、と心から思う。『ドーン』は500頁にも届こうかという大部の小説だけど、あと3~5割増で読みたかったくらいだ。ところで今朝の朝日新聞に、坂本龍一とルイ・ヴィトンとの、日本の森再生の協定に関する記事が載っていたが、「エコにもファッションが必要」という坂本龍一の感覚は、作品中でファッションも含めたカルチャーへの目配りに一切手を抜かない平野啓一郎と共通する。Book Japanでの相川藍さんの『ドーン』書評において引かれた「アルベール・エルバスのきらめくように美しいパーティー・ドレス」がその典型です。そう、ファッション感覚もちゃんと備わっているんですよねえ。 (BJ塚本)
おすすめ本書評を満載 オンライン・ブックストア 【Book Japan】
