伊坂幸太郎の新作『あるキング』、「誰も読んだことのないような伝記を書いてみました。」と広告にあるとおり、このところの主役がイヤが応にも巻き込まれてしまう系のストーリーとはまったく違う、本当にこういうのを書いてみたかったのであろうファンタジーだ。野球を愛する人たちに捧げる現代の神話といってもいい。折に触れて黒づくめの衣装を身にまとった三人の魔女が出てくるのだけど、その囃し立てっぷりに微妙な距離感があって、物語づくりに当たっての伊坂幸太郎のクールな眼差しがそこに感じられる。魔女は同時にソウル・ミュージックのコーラス・ガールのようでもあり、ソウルフルかつユーモラスにこの物語の多面性を象徴する存在だ。神話だから、実は単純にはいかないのです。したがって200頁ちょっとだけど、十分に読み応えあり。
孤高の天才・山田王求は、周囲の期待と妬みを一身に集め、いよいよその孤独を深めてゆく……天才はまさにわれわれの孤独を肩代わりしてくれる存在にほかならない。
ところで「東北楽天ゴールデンイーグルス」の存在なくして、この小説は誕生しなかったのではないか、たぶん。というわけで久しぶりに田尾監督のことも思い起こされたのでありました。
野球つながり。なぜか一昨日9月1日は野球小説の日でありました。
Book Japanトップページ左の新刊情報「9/1」を見てください。
川上健一『ナイン─9つの奇跡』、堂場瞬一『Boss』、鯨統一郎『いつか、キャッチボールをする日』と3冊も刊行。児玉光雄『イチロー式逆境力』、赤坂英一『キャッチャーという人生』と野球本も2冊。やっぱり根強いぞ、野球。
米澤穂信、これも新作『追想五断章』。読者に解決を委ねるリドルストーリーが五篇収められているということで、それに終始しているミステリであると早とちりしている人はいませんか? というか自分がそうでした。
確かに収められています。が、そのリドルストーリーに込められたナゾを主役である古書店のアルバイト青年が解き明かすわけで、『追想五断章』=リドルストーリーではありません。つまり、読者が五回も宙に放り投げられるようなミステリではないので、みなさん安心して読んでください。Book Japanの杉江松恋さんのインタビューにおいて「著作が十作品を超えたところで新しいことにもチャレンジしようと考えた」という米澤さんの発言があります。『儚い羊たちの祝宴』においては、初の短篇集であり、またホラー小説でもあるというところが新しいチャレンジですが、新作『追想五断章』においては初めて「家族・親子の関係」をテーマに据えたということが新しいチャレンジなのだろうと思いますが、みなさんいかがでしょう。
川上未映子『ヘヴン』が昨日発売されました。芥川賞の受賞作『乳と卵』の刊行は昨年の2月だったので、1年半の待望久しい新作。前評判も凄い。
はやくも「素晴らしい出来です。もうゼッタイに書きますわよ」(語尾ちょっと脚色)という連絡が今週のアタマに、レビュワー三浦天紗子さんより届いた。たぶん来週のどこかで掲載できそうです。ご期待ください。
明日金曜日はその三浦さんの新刊チェックデーですが、まだ発売されていないメジャー作家作品のネット一番のり書評も入っています。それもお楽しみに。 (BJ塚本)


