ビバークラジオ

ビバークラジオ

心の曠野で開局する小さな放送局です。
日常の些事の中に
日々溢れ出る話題の中に
MAXIM(名言・金言・箴言・格言・処世術)の中に
映画や小説、音楽や1枚の写真の中に

この局が、暗夜を照らす一燈の役割を
少しでも果たすことが出来れば幸いです。合掌

Amebaでブログを始めよう!

ごきげんよう

 

 

 

冠婚葬祭  


特に

 

誰かが亡くなった葬儀の場では

人の死という現実を前にして、この世の無情と儚さに涙する場面がある一方で

亡くなった方の遺産や遺品目当ての骨肉の争いが勃発して

 

サスペンスドラマの番宣映像を観るがごとくの修羅場に遭遇することがあります。




平穏な日常生活では適当な挨拶や愛想笑い、時には寡黙な人物を装ったり

感情を表情に乗せないようにすることなど、ちょっとした努力で凌ぐことは出来ますが

葬儀の場で仮面を被り続けることは容易なことではありません。


その人が 

世間体を重んじるのか


真心や人情を重んじるのか


伝統を重んじるのか


家柄や格式を重んじるのか


単なる儀式と捉えるのか



どの立ち位置で生きているのか

 


人間の生き様や本性が、陽の下に簡単にさらされるのです。



中には此れ幸い、チャンス到来と揉み手をしながら財産や遺品目当てに

駆けつける輩もいます。




冠婚葬祭は、例えばドラキュラ伯爵が曙光の兆しに狼狽し

 

陽の光に身もだえする環境を作り出します。

葬儀とは、いつの時にもスポットライトを浴びた

己の生き様の総決算の舞台です。


各々の主人公は、己の魂の命ずるままに忠実に演じます。


演じざるを得ません。




此れはある通夜の席の話しです。


故人の亡き骸を前にして世間話もそこそこに

 

直ぐに遺産遺品相続の話しは始まりました。

参加者は皆、少し身を乗り出しているように見える。

 


こんな光景は、別に珍しいことではありません。



その頃はまだ、戸籍上わたしも当事者にならざるをえない立場でしたので

しばらくの間は、皆の話しを聞いている風を装いました。

 

 

正直なところ、目の前には酒やビールと沢山の肴があったことで

 

居酒屋気分で、自分の心が思い描く世界に浸ればよかったのです。

 

 

 


そうして、わたしは見てしまったのです。

 

あのおぞましい光景を ・ ・ ・



皆が如何にして遺産遺品を我が身に引き寄せるかを主張している最中のことです。

一人の老婆が亡くなった方の寝室に忍び込み


亡くなった方が使われていた箪笥を次々に開け

生前愛用していた和服を取り出しては、洋服の上に何枚も重ね着しだしたのです。

引き出しは、引きだされたままなのですから

 

空き巣と変わりません。



そして圧巻は、晩秋の時季にも関わらず黒い毛皮のコートをまとったのです。




彼女は其の身なりのまま平然と席に戻りました。




これでは『火付け盗賊』か『野盗』ではないか。



以前目撃した、自動車のフロントガラスに激突して死んだカラスの亡骸に

仲間のカラスが群がり、我先にと貪る姿と変わらない。




罵詈雑言の言葉を交えながらの遺産相続の話題はその後も永遠と続きました。



嫌悪感と軽蔑と吐気 ・ ・ ・本当に吐きそうだ。







祭壇を見ると線香がすっかり燃え尽きているではありませんか。




これでは故人も死にきれないことでしょう。

立ち上がろうとしたときです。

中学生とおぼしき制服を着た少女がわたしを一瞥して直ぐに分かってくれました。

 

 

祭壇に駆け寄って、線香に火を点けてくれたのです。



この修羅の場にも、女神は降臨していることが唯一の救いでした。




わたしはその後も会話には一切加わらずに退席することにしました。


あれから10年以上の歳月が流れました。

 


あの日

 

外へ出ると、少し冷えた風が酔いで火照った肌に心地よかった。


でも、心の奥底は冷え切って凍えそう。

 

 

わたしは誓った。

 

 

もう二度と彼らとは会わないと ・ ・ ・

 


田舎道の両脇に広がる闇の中から草花の強い香りが漂っていました。



そうして、先ほどの光景を思い浮かべていました。

 

サスペンスドラマの番宣映像の後に流れるCMは

 

どうか『蚊取り線香か、虫よけスプレー』であって欲しい。

 


『皆、消えてしまえ』

 

 

心の底から怒りが込み上げた。





わたしの手元には5号鉢(直径約15㎝)に鎮座するサボテン(金鯱が在ります。

 

亡くなった方に生前頂いたものです。

 

 

あれからサボテンは黄色の花を3度咲かせてくれましたが

あの日に顔を合わせた『修羅の群れ』とは其の後一度も遭ったことはありません。


出来れば今生でも、彼の世の涅槃の其の先の世界でさえも関わりなきことを

 

祈念しております。




わたしは、あの夜から完全なる孤高の道を歩み始めた。




人は皆、裸で生まれ

やがて

裸で死んでいく。

 

 

己の心に忠実に

 

決して後悔しない、そんな人生を歩みたいものです。



それではまた、お会いしましょう

ごきげんよう

 

 

  

 

      

 

  寒い朝のことです。

 

  サンピラーが出現しました。

 

  大気中の水分が冷気によって氷の結晶となり

  太陽の光に反射して柱状の光の塊が現れる。

  (上部の二つの黒い点は移動するカラスの夫婦です)

 

  わたしには、観音様のお姿と映りました。 

 

 

                   合掌