2013年04月26日 17時41分
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プレジデントオンライン

価値の再編集などを意味する「キュレーション」というアメリカ生まれの概念が、ビジネス界で注目されている。総合デザインに佐藤可士和氏を迎えた新生セブン-イレブンを例に、この新時代の発想法を追った。

■ブランドの価値をきちんと「整理」し、的確なコミュニケーションで伝える
ビジネスのあり方や本質を問い直し、提供すべきコンテンツを選択し絞り込む。ただ、それだけでは顧客に新しい意味や価値はなかなか伝わらない。キュレーションで難しいのは、それぞれのコンテンツを結びつけ、1つのブランドとして価値を表現する伝え方だ。
セブン-イレブンの場合、日本で最も活躍するクリエーティブディレクターの1人、佐藤可士和氏とタッグを組むことで、この問題の打開策を図った。おにぎりや弁当、パン、惣菜などのオリジナル商品を全面リニューアルするとともに、従来バラバラだった商品のロゴやパッケージデザインを佐藤氏の力を借りて統一する。売り場全体でブランド価値を再構築し、顧客に再認識してもらうブランディングプロジェクトを1年がかりで進めたのだ。
グループの広報誌上で佐藤氏と対談した縁で、プロジェクトへの協力を求めた鈴木敏文氏がいきさつを話す。
「私は、小売業にとって、新しいものを生み出すと同時に、新しさをいかに伝えていくか、コミュニケーションが非常に重要だと考えていました。ところが、アピールの仕方に全体感がなく、単発に終わっていて、なかなかブランドの価値が伝わらない。日ごろの問題意識をお話しすると、佐藤さんも同じ考えを持っておられた。そこでセブン-イレブンを進化させるため、力を貸してほしいとお願いしたのです。
2人だけで何回も話し合い、私の信念をすべてお話ししました。ロゴやデザインを具現化するため、社長以下、現場部隊も入ったミーティングは1年間で30回を超えました」
その間のエピソードが、11年5月31日に行われた新ロゴの発表会で披露された。あるとき、弁当を試食した佐藤氏の口から意外な言葉が飛び出した。
「ところで、この弁当はどこの仕出し屋がつくっているのですか」。セブン-イレブンではチームMD(マーチャンダイジング=商品政策)といって、ベンダーと呼ばれる弁当メーカーとチームを組んで共同で開発し、品質の改善改革を積み重ねてきた。ところが、コンビニに強い関心を持っていたという佐藤氏にも、価値が伝え切れていなかったのだ。
現場部隊を率い、佐藤氏と並んで発表会に臨んだ井阪隆一社長兼COO(最高執行責任者)が、「われわれにはコンテンツはあっても、それらをつないで結びつけるコンテクスト(文脈)がなかった」と語る言葉が印象的だった。
近くて便利なだけでなく、味や品質を徹底追求する。脈々たる理念を1つのブランドマークにいかに注ぎ込むか。実際、1年に及ぶブランディングプロジェクトは、佐藤氏によれば、「セブン-イレブンの確固たる信念をブランドマークで表すプロセスだった」という。その意味合いを鈴木氏はこう話す。
「個と全体という構図でいえば、これまではそれぞれの商品について、個としてしか考えなくて、“セブン-イレブンとしての弁当”という感覚がなかった。いや、みんな、自分ではあるつもりでいた。しかし、弁当にはロゴマークもついていないし、パッケージも全部違っていて、結局、バラバラでブランドのイメージが伝わっていなかった。
今回のプロジェクトで学んだのは、提供する価値を整理することと、それを的確なコミュニケーションで伝えることの大切さです。すると顧客の側も、個々の商品は違っても、ロゴやデザインが統一されていることで、背後にある関連性や文脈を感じることができます。商品の絞り込みはレコメンドする価値を強く意識づけるためですが、それは整理して伝えることで初めて意味を持つのだと学んだのです」
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セブン&アイホールディングス代表取締役会長兼CEO 

鈴木敏文(すずき・としふみ)

1932年生まれ。中央大学卒。62年イトーヨーカ堂入社、73年ヨークセブン(現セブン-イレブン・ジャパン)設立。92年より現職。

2013年04月24日 07時41分
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プレジデントオンライン

価値の再編集などを意味する「キュレーション」というアメリカ生まれの概念が、ビジネス界で注目されている。総合デザインに佐藤可士和氏を迎えた新生セブン-イレブンを例に、この新時代の発想法を追った。

■コンテンツの「選択と絞り込み」により顧客に新しい価値をレコメンドする
自分たちのビジネスのあるべき姿を再定義すると、顧客に何をどのように提供すべきかが見えてくる。キュレーションの次のステップは商品やコンテンツの選択と絞り込みだ。
セブン-イレブンの場合、もともと限られた店舗スペースのなかで、数多くの商品群のなかから売れ筋商品を選択し絞り込む戦略を徹底していた。その理由を鈴木敏文氏はこう話す。
【鈴木氏】なぜ商品の絞り込みが大切かといえば、絞り込みによって商品のアピール力がまったく違ってくるからです。本来注目されるべき商品は10個置いたら10個売れるのに、3個ぐらいしか置かないと顧客は見落としてしまい、あまり売れません。この商品はぜひ売っていこうと思ったら、しっかりフェース(陳列面)をとることでベストセラーにしていく。それが絞り込みです。
——この選択と絞り込みの戦略は従来、主に弁当やおにぎりなど、すぐ食べられる即食性の高い商品についてもっぱら行われていた。これに対し、「近くて便利」のコンセプトを打ち出して以降、新たな売れ筋としてキュレーションの対象となったのが、食事づくりの手間や煩わしさの解決策としてのミールソリューションの商品群だった。鈴木氏がいう。
【鈴木氏】特に力を入れたのは惣菜類です。メニューの種類を増やし、プライベートブランドのセブンプレミアム・シリーズでもポテトサラダや肉じゃが、ひじき煮など盛りつけるだけのメニューや、さわら西京漬けのように焼くだけのメニューなどを順次投入していきました。
惣菜のほか、キャベツ、大根、ニンジン、キュウリなどの生鮮野菜を2分の1~4分の1にカットし、あるいは2本1組で小分けにして店頭に並べるだけでなく、宅配サービスも開始しました。従来、セブン-イレブンでは生鮮食品は扱わない主義を貫いてきました。それを180度転換し、以前はスーパーで扱った商品を取り込めるようになったのも、「近くて便利」というコンビニの新しい意味づけをしたからです。
明確なコンセプトのもとで、提供する商品の照準を絞り込んでいく。絞り込みとは別のいい方をすれば、顧客に対してレコメンド(推奨)することです。店舗というプラットホームで、売り手としてレコメンドする商品やサービスを品揃えしていく。
惣菜メニューに照準を絞り込んだのも、スーパーに行かなくても、近くのコンビニで食事の用意ができるという生活の解決策をレコメンドするためです。だから、照準を明確に絞り込むほど、顧客にとって価値がとらえやすくなる。
モノが余り、消費が飽和した今の時代には、顧客が店に合わせて買い物をするのではなく、店のほうが顧客に合わせ、レコメンドする価値を絞り込んで提供する必要があるのです。
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セブン&アイホールディングス代表取締役会長兼CEO 

鈴木敏文(すずき・としふみ)

1932年生まれ。中央大学卒。62年イトーヨーカ堂入社、73年ヨークセブン(現セブン-イレブン・ジャパン)設立。92年より現職。

2013年04月23日 06時41分
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プレジデントオンライン

価値の再編集などを意味する「キュレーション」というアメリカ生まれの概念が、ビジネス界で注目されている。総合デザインに佐藤可士和氏を迎えた新生セブン-イレブンを例に、この新時代の発想法を追った。

キュレーションは美術館や博物館で企画や展示を担当する専門職のキュレーターに由来する。例えば、美術館のキュレーターは既存の作品の意味を問い直し、選択し絞り込み、美術館というプラットホーム上でそれらを結びつけ、新しい意味や価値を伝える。
ITジャーナリストの佐々木俊尚氏は著書『キュレーションの時代』で、主にネット上でユーザー自身が情報のキュレーションを行っている動きを紹介したが、キュレーションの発想はリアルの世界でも広まっている。

一例をあげれば、アップル社のタブレットコンピュータiPadは「キュレーテッド・コンピューティング」と呼ばれる。
あれもこれもできる多機能のパソコンと異なり、DVDプレーヤーもなければ、CD焼き付けもできないが、つくり手によって機能が選択され絞られていることで、逆に使いやすさという新しい価値が提供された。

結果、iPadは既存のパソコンが入れなかった場面にも入り込み、高齢者など既存のノンユーザーにもIT利用を可能にし、新しい市場を生み出した。
また百貨店にかわり、洗練された商品を選んで集めて人気上昇中のセレクトショップもキュレーションの典型で、オーナーやスタッフはキュレーターに例えられたりする。
20世紀がつくり手側の発想で「より多くの価値」を追求する時代だったとすれば、21世紀に入った今、受け手側の視点でそれらを再編集し、「よりよい価値」を実現していくキュレーションの時代に入ろうとしている。

それを日本でいち早く実践しているのが、流通の最前線で事業を展開するコンビニエンスストアチェーンの王者、セブン-イレブン・ジャパンだ。

鈴木敏文会長兼CEO(最高経営責任者)の主導により、2009年秋から店舗での商品やサービスの大幅な見直しに着手して1年半、11年2月期決算の既存店売上高は消費不況下でも前年を上回る実績をあげ、前年並みか前年割れの競合他社との力の差を見せつけた。
キュレーションが今なぜ注目されるのか。それはどのように行われるのか。セブン-イレブンの取り組みを例に考え方やプロセスを追ってみたい。

■ビジネスのあり方を「再定義」し「新しい意味」を見いだす
キュレーションの最初のステップは、これまでのビジネスのあり方を問い直し、意味を再定義することから始まる。セブン-イレブンが09年秋に着手した品揃えのキュレーションも、コンビニの本質を見つめ直し、「今の時代に求められる『近くて便利』」という新たな意味を見いだすところからスタートした。その経緯について鈴木氏が話す。
【鈴木氏】日本初の本格的なコンビニエンスストアチェーンであるセブン-イレブンはもともと、初期のテレビCMの「開いててよかった」のコピーどおり、日本人の生活時間が広がっていくなかで、近くにあっていつでも開いている利便性を提供し、若い層を中心に強い支持を受けました。
それから30年以上経った今なぜ、「近くて便利」というコンセプトをまた追求したのか。
それは日本の生活環境やマーケットの変化を見すえ、自分たちはどのような顧客に対し、どのような商品やサービスを提供していくべきか、改めて問い直し、変化への対応を徹底するためでした。
日本は総人口が減少する一方で、少子高齢化や非婚化を背景に単身世帯は逆に増え、今後も一世帯あたりの人数はどんどん減っていきます。また、女性の就業率は年々高まり、60%近くに達しています。
とすると、スーパーマーケットまで行かなくても、近くのコンビニでほしい商品がほしい分量だけ手に入れば、そこで買い物をすませようと考えるのは自然の流れです。
日本人の生活パターンが変わってきた今だからこそ、コンビニを「近くて便利」というコンセプトで定義づけることが重要ではないか。全国各地で店舗の経営相談にあたるオペレーション・フィールド・カウンセラー(通称OFC)たちに、そう語ったのが始まりでした。
もちろん、コンビニエンスストアという言葉自体、便利な店という意味です。別に「近くて便利」などといわなくてもいいのではないかと思われるかもしれません。ただ、便利という言葉はあまりにも広い意味を持ち、なんにでもあてはまってしまいます。
また、われわれ日本人のなかに、「コンビニといえば、ああいう店だ」という固定したイメージができあがっているところもあります。そのイメージのなかにいる限り、マンネリ化するだけです。
そこで、コンビニエンスを「近くて便利」といい換えることで、セブン-イレブンでまたなにか新しいことが始まるのではないかという感覚を顧客に持ってもらう。店舗のオーナーさんたちにも、自分たちが目指す方向性を示すことができます。セブン-イレブンといえば、「近くて便利」が“枕詞”になるようにする。それが大事だと考えたのです。
——セブン-イレブンはこの取り組みを開始すると、「近くて便利」という新しいコンセプトを訴求するテレビCMの放映も開始した。ポップシンガーの財津和夫が率いたチューリップの往年の名曲「青春の影」がBGMに流れ、人々の暮らしのなかにセブン-イレブンが溶け込む様を映したCMは好評を博し、商品そのものを訴求したローソンやファミリーマートのCMとは方向性の違いを感じさせたのだった。
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セブン&アイホールディングス代表取締役会長兼CEO 

鈴木敏文(すずき・としふみ)

1932年生まれ。中央大学卒。62年イトーヨーカ堂入社、73年ヨークセブン(現セブン-イレブン・ジャパン)設立。92年より現職。