その人は先代国王

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王国でももっとも高貴な女性の一人のはずなのに、なぜその人のことを話してはいけないのか、それが知りたかったが、国王も答えるつもりはないらしい。
「確かに。俺とおまえをつなぐものはアエラ叔母だ。あの方は俺の父の妹で、おまえの父を生んだ母だが、カーサが正しい。俺も忠告するが、あの方の名前を父上の前で出すのは避けたほうがいい。どうしても知りたいのならベルミンスター公に尋ねることだ」
「義母に……ですか?」
「うむ。そのほうがまだ安全だ。——いいな?」
 どうやらサヴォア公爵家には自分の出生以外にも複雑な事情があるらしい。
 
 ロザモンドはにっこり微笑んだ。
「今日はこれからどうなさる?」
「少し剣の稽古をしようかと思っております」
「それはいい。ならば、わたしがお相手しよう」
「は?」
「ここ最近ずっと机に張りついてたのでな。身体がなまっていけない。ちょうどいい機会だ。わたしが鍛《きた》えてさしあげるとしよう」
 ブライスは青くなった。女性を相手に——しかも義母を相手に木太刀を使った稽古などとんでもない。
 結構ですと言おうとした時には、義母は召使いに稽古の支度をするようにと言いつけている。
 なんと言って辞退すればと焦《あせ》っていると、運よくバルロがやってきた。
「父上!」
 咄嗟に救いを求めたブライスだが、これが完全に裏目に出た。バルロは笑って言ったのである。
「何を遠慮することがある。存分に鍛えてもらえ。ベルミンスター公の腕前は確かなものだぞ」
 ますます青くなったブライスだった。
 あれよあれよという間に上着を取られ、木太刀を持たされ、陽の降りそそぐ広大な庭でロザモンドと手合わせする羽目になっていたのである。
 剣を使う女性などブライスの感覚では有りえないものだった。その女性を守るために戦うのが騎士のはずだったが、ロザモンドはとんでもなく強かった。
 いつも稽古をつけてもらっているキャリガンより遥かに太刀筋が鋭く、容赦がない。
 ブライスはたちまち、ぜいぜい喘《あえ》ぐ羽目になった。
 逆にロザモンドは楽しそうだった。頬《ほお》を上気させ、眼をきらきら輝かせて、満足そうに言ったものだ。
「筋がいいぞ。ブライスどのは鍛えがいがあるな。これから手が空いている時は、わたしが剣術指南を務めることにしよう」
 今度こそ真っ青になったが、稽古を見学していたバルロも大いに賛成とばかりに肯いている。
「いいことだ。ブライスにはもったいない師匠だが、どうせなら一流の指導者につくべきだからな」
「そうとも。考えてみれば十四歳からの騎士修行は他の少年に比べれば少し遅いのだから、遅れを取り戻すためにもブライスどのには家庭教師が必要だ。最初からこうすればよかったな」
「まったくだ。義母上に感謝して修行に励めよ」
 ブライスは再び絶望的な気分でを空を仰いだ。