「なんだ、まだここに来ていたのか・・・」
現れたのは父だった。
私を心配して迎えに来たのだ。
10年前の空襲で、生き残った家族は私と父だけだった。
母も弟も亡くなってしまった。
私は、父がこの場所に足を踏み入れたくないことを分かっている。
長い時間が経っていても、この場所に来れば自分の息子を失った現実を
つい昨日の事の様に思い出してしまうからだ。
私はこの場所を早く離れようと思った。
『さあ、帰りましょ。お夕飯の支度もしないとね』
今の日本は10年前に失われたものを取り戻すかのように活気に満ちている。
良くも悪くも、人はみなぎらぎらしていた。
道はいつも人や自転車でごったがえしている。
帰り道を歩いていると、けたたましい音と共に横の路地からオートバイが飛び出してきた。
危うくぶつかりそうになる。間一髪なんとかよけることができた。
「何するのよ!!危ないでしょ!!」
「ごめんごめん。まだあんまり運転になれてなく・・・」
その男はそう言ったきり、私を見つめたまま固まってしまった。
「どうしたのよ?」
私はまだ怒っていた。
「何とかいった・・ら・・・」
そう言ったきり私も言葉が出なくなっていた。そのやさしい瞳の輝きは昔と少しも変わらなかった。
「君・・・」
二人はしばらく見つめ合っていた。
話したいことはたくさんある。確認したい事もたくさん。
でも、なぜか言葉がでてこなかった。「君」も同じような顔をしていた。
・・・少しして二人とも微笑んでいた。
「海でも行こうよ」
そういった「君」のオートバイの後ろに跨り、時間を取り戻すかのようにしっかりとしがみついた。
海まで向かうオートバイで、あの時感じた「風」が加速と共に大きくなっていくのを感じていた。