私は10年前の秋の夕暮れをそこまで思い出して目を開けた。
ふっと笑みがこぼれる。

あの時は驚いたな。

だって気になる彼と私の弟が楽しげにおしゃべりしてるんだもの。
弟が小学校から拾ってきた犬も一緒だった。

でも・・・
そのあたたかい記憶はそこで途切れている。
かすかに覚えているのは、真っ白なーーーーーー光。

10年前・・・時は1942年ーーーー第二次世界大戦、日本本土空襲
が始まった年だった。

あの日、田舎に住む私たちはまだ普通の暮らしを送れていた。
でも、気まぐれで落とされたひとつの小型爆弾が大切な命と私の記憶を
奪った。

それが校庭に落ちた瞬間、真っ白な光に包まれた。
ベランダにいた私は爆風で後ろに飛ばされた。
その時頭を打った衝撃で、その後10年間、記憶を失うこととなった。
思い出したのはほんの数週間前。
やはりこの校庭にいた時だった。
引き金は、キンモクセイの香り。
10年前のあの夕暮れと同じ香りに、一気に記憶がよみがえった。

今にして思えば、私が何かある度にこの校庭を訪れていたのは、失った
自分を取り戻すためだったのかもしれない。

ただ、記憶が戻ったことで、深い悲しみも受け止めなければならなかった。
それは今私のそばに、あのかわいい犬も、無邪気な弟も、風をおこした
彼も、いないということ・・・。
私はその場にしゃがみこみ、愛しいものに触れるように校庭の土をなでた。
・・・とその時、背後で何か物音がした。

(由)