夜のコンビニで、レジに並んでいたときのこと。


前にいた若い男の子が、
カゴに入れた商品をひとつずつレジに置いていった。

 

おにぎり、パン、カップ麺。


どれも安いものばかり。

 

店員さんがバーコードを通すたびに、
男の子は小さくうなずいていた。

 

でも最後のひとつ


缶コーヒーのところで、
男の子は急に手を伸ばして、


「すみません、それ…やっぱりいいです」


と小さな声で言った。

 

その声は、
聞き取れるかどうかの小ささだった。

 

会計を済ませた男の子は、
店を出て、
コンビニの前のベンチに座った。

 

袋からおにぎりを取り出して、
ゆっくり食べ始めた。

 

その横には、
くたびれたペットボトルの水が置かれていた。


ラベルは剥がれ、少し凹んでいて、
何度も使い回しているのが分かった。

 

その水を一口飲んだあと、
男の子はポケットから
くしゃくしゃのレシートを取り出した。

 

裏には、
震えた字でこう書かれていた。

 

「今日、絶対に1,200円以内」

 

その文字を見た瞬間、
胸が締め付けられた。

 

誰にも見られないところで、


誰にも褒められないところで、


自分の未来のために、


たったひとつの

 

ささやかな楽しみ

 

を手放した背中。

 

それは節約でも我慢でもなく、
ただの覚悟だった。

 

男の子は食べ終わると、


深呼吸して、


ゆっくり立ち上がった。

 

その背中は、
弱さなんてひとつもなくて、
むしろ誰よりも強かった。

 

 

僕は今日もコーヒーを買った。


でも、あの子が戻した缶コーヒーのほうが、


ずっと、、、 重く見えた。

 

 

 

 

思わず僕はそっと

 

名刺を差し出した