コラムニストの尾藤克之です。
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「読書を自分の武器にする技術」 (WAVE出版)
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枇杷かな子『今日もまだお母さんに会いたい』(KADOKAWA)を読んだ。
今日もまだお母さんに会いたい
(枇杷かな子 著)KADOKAWA
https://www.amazon.co.jp/dp/4046853999/
枇杷かな子『今日もまだお母さんに会いたい』を読みながら、そんなことを考えた。著者が描くのは、劇的な別れの場面ではない。一緒に食べたもの、ふたりで歩いた道、何気ない会話の断片。そうした「日常」の記憶が、静かに、しかし確かに積み重ねられていく。
昨年、私は母を膵がんで亡くした。医師から余命宣告を受けたとき、母はショックで倒れ込んだ。「1カ月もたない、間違いなく死にます」という言葉は、あまりにも残酷だった。心の準備をする時間すら与えられなかった。
あれから1年。一周忌を終えて、ようやく日常を取り戻しつつある。だが、ふとした瞬間に母のことを思い出す。スーパーで母が好きだった食材を見かけたとき。母がよく観ていたテレビ番組が流れてきたとき。そうした些細な日常の中に、喪失の記憶は潜んでいる。
本書の著者も同じ経験をしているのだろう。約2年の介護を経て両親を見送った後、著者は「もう会えない」という現実と向き合う。その過程で思い出すのは、やはり日常の断片だ。特別な出来事ではなく、当たり前のように過ごした時間。それが、失ってから初めて、かけがえのないものだったと気づく。
興味深いのは、本書が「大好きな母」と「ずっと苦手だった父」を並行して描いていることだ。親子関係は必ずしも美しいものばかりではない。著者は『余命300日の毒親』で、暴力を振るう父との関係を赤裸々に描いている。
その経験を経たからこそ、本書には複雑な感情が滲む。愛情だけでなく、後悔や葛藤も含めた「本当の別れ」が描かれている。
私自身、母との関係を振り返れば、後悔ばかりが浮かぶ。もっと話を聞いておけばよかった。もっと一緒にいる時間を作ればよかった。しかし、そうした後悔もまた、喪失の一部なのだろう。
本書のタイトル「今日もまだお母さんに会いたい」には、時間が解決してくれない痛みが込められている。1年経っても、5年経っても、会いたいという気持ちは消えない。それでも人は日常を生きていかなければならない。本書は、その矛盾を抱えながら生きることを、静かに肯定してくれる。
SNS発のコミックエッセイという成り立ちゆえ、各エピソードは短く読みやすい。だが、40ページ以上の描き下ろしが加わった書籍版は、断片的だった物語に一本の筋を通している。「喪失から再生へ」という普遍的なテーマが、著者の繊細な筆致で描かれている。
もう会えない誰かを想いながら生きる人は多い。本書は、そうした人々の心に静かに寄り添う一冊である。
書籍評価レポート
■ 採点結果
【基礎点】 44点/50点(テーマ、論理構造、完成度、訴求力)
【技術点】 20点/25点(文章技術、構成技術)
【内容点】 22点/25点(独創性、説得性)
■ 最終スコア 【86点/100点】
■ 評価ランク ★★★★ 推奨できる良書
■ 評価の根拠
【高評価ポイント】
テーマの普遍性と深度:「ありふれた悲しみ」を描く覚悟があり、親を亡くした経験を持つ多くの読者の心に響く普遍的テーマを扱っている
構成の奥行き:「大好きな母」と「ずっと苦手だった父」という対比により、単純な美談に回収されない複雑な感情が描かれている。『余命300日の毒親』との連続性が作品に厚みを与えている
タイトルの秀逸さ:「今日もまだ」という言葉に、時間が経っても癒えない痛みと日常を生きる現実の両方が凝縮されている
【課題・改善点】
SNS発ゆえの構成的制約:各エピソードが短く断片的になりがちで、書籍版の描き下ろしで補完しているものの、全体の流れにやや継ぎ目が残る
介護エッセイとしての新規性:構成としては「介護エッセイの王道をなぞっている」面があり、ジャンル内での革新性は限定的
父との関係の掘り下げ:本書単体では父との複雑な関係の詳細が『余命300日の毒親』に委ねられており、本作内での完結性にやや欠ける
■ 総評
喪失の痛みを「特別ではないが軽くもない」ものとして描く誠実さが本書の核心である。SNS発のコミックエッセイという出自ながら、書籍版では40ページ以上の描き下ろしにより物語に一本の筋が通り、「喪失から再生へ」という普遍的テーマが著者の繊細な筆致で結実している。親を亡くした悲しみを抱える読者に静かに寄り添う、推奨できる良書である。
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