ミサイルマン | ∴EROGLOG---鬼畜・グロ・エログロblog∴

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よく来たな者ども。くつろいでゆけ。

▼久しいの。
花粉だ黄砂だと人間共が荒ぶ中、わらわは相も変わらずピンピンしておる。何せ魔界の瘴気に比ぶれば、このようなもの高原の空気と変わらぬからの。ほほ。

▼さて、今回の紹介は以前「いま、殺りにゆきます」でも紹介した平山夢明の短編集じゃ。

【ミサイルマン】
ミサイルマン (光文社文庫)/光文社

¥650
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氏は先述の本や実話系怪談と言われる伝聞体を取った本、もしくはノンフィクションの「異常快楽殺人」等が有名やも知れぬな。だが、わらわは氏の本領が発揮されているのは、こういった「物語」だと思うておる。

平山夢明、いわゆるキチク系作家。
(尚、漢字の鬼畜ではなくカタカナでのキチクは氏の好みによる)

氏の紡ぎだす物語には、常に満遍なく暴力が潜んでいる。
それはただ殴る蹴るといった、痛覚的な表現の話ではない。
文字の暴力、文章の持つ暴れる力を指す。こんな字の集合が、ただの文字の羅列が、読むだけでこんなにも我々の精神を甚振り揺らがせ、渾身のフルスイングで痛めつけてくるのだ。
字面に吐き気を覚え、字面に怒りを覚え、字面に憎悪を持つ。
その恐怖に、そしてその素晴らしさに、打ち震えずにはいられない。

とは言うものの、こんなものはまさしく何より、百聞は一見に如かず。

下記にて簡単なガイドラインをまとめよう。
気になれば、購読を勧める。どうせここを読んでいる諸兄は、好きに違いないからの。ほほ。
ただ、合わない人間にはとことん合わぬので、人にはおいそれと勧めない様にな。

【テロルの創世】…SF系キチク
平和だった少年に、ある日突きつけられる理不尽な現実。それと戦う話。
よくある設定でよくある話ではあるが、そこに平山節が加わればまた一興である。

『彼女は私の影(オンブル)です。彼女の姉によって私は生き永らえることができました』

【Necksucker Blues】…男と女系キチク
男と女。そこに後天的不細工とデブと絶世の訳あり美女。加えてどろどろとした嫉妬と快楽。
全部混ぜて出せば、こんな話になるのか…と言うと、普通はならない。

『次は少々、厄介だ。ヘモグロビンの蛋白質を脂肪や硫化水素がいたずらに増加しないように洗練させるには奇策がいる。大型の蜘蛛もしくはたがめなどの水棲昆虫の摂取。しかし、これらを呆れるほどに大量に摂ることは難しい……本当に難しいんだ』

【けだもの】…切ない系キチク
おおかみおとこの愛と嘘(流行りの映画とかけてみたが、あまり上手くない)
サスペンス劇場的な雰囲気と、王道ストーリーが組み合わさった話。読みやすい。

『両足の感覚は既に無く、中身の詰まった靴が見たこともない方角に捻れ、鉄板の間で潰れていた。腹と胸と太股が串刺しにされていた。感電しているような震えが始まったが自分ではどうすることもできなかった。』
『声が聞こえた。「あ~。結構、酷いな。縫い目のばらけた剥製みたいだぜ」』


【枷】…キチガイ系キチク
女をぎりぎりまで甚振り殺すと、「顕現」という奇跡が起こる事を発見した男の話。
殺す事に快楽は無く、その「顕現」によって現れた奇跡の軌跡を蒐集する事が人生の目的。
この話が個人的には、諸兄らを満足させる文章が詰まっていたように思う。

『まず四肢の先端から破壊していく。爪をペンチで引き抜き、赤い孔をはんだごてで灼き潰す……状況が進むまで刃物は使わない。出血量を抑えるためだ、失血が進むと意識が混迷してしまうからな。それまでは折る、剥ぐ、砕く、潰す、灼く、削ぐが中心になる。八時間ほどかけ、じっくりと解体したいところだ』

【それでもお前はおれのハニー】…純愛系キチク
コミカルさがところどころに滲み、テンポよく進んでいく。
平山氏の物語の中では、最早定番にも近いホームレスが主役の話である。

『「商売は終わりかい。残念ながらあんたがティッシュと間違えてよこした金は使っちまった。ごめんよ」
「いくわよ」
「どこへ」
「あたしのうち」
いよいよ、俺は何か酷い目に遭って死ぬんだと思った。こんなについていて良いわけがない。そしてその勘は半分ドンピシャだった。』

【或る彼岸の接近】…じわり系キチク
ひたひたと文章の合間から忍び寄るような雰囲気を楽しむ話。
深く考えてはいけないし、考えても分からない。悪夢とは、そういうものだろう。

『ごッごッ。
わたしは廊下に出ました。闇の中で何かが微かに上下に動くのが判りました。手探りでコンセントに触れるとわたしはスイッチを入れました。
目的の場所にはあの人形、ヨーイチがありました。』


【ミサイルマン】…青春系キチク
主題作である。
某バンドの曲名でもあり、話の中にも歌詞が出てくる。主人公はツヨシとシゲ。
若さと一種の爽やかさがあり、ボーイズラブの気配すら滲む、青春ストーリーである。

『「ほら、俺、枕で練習したんですよ。結構、上手くいったでしょう」
肘から先を真っ赤にしたシゲがオンナの首をブラ下げて見せた。
半開きになった唇からオンナの歯が覗いていた。目は眠ったようにつぶっていたが顎から下で皮膚が裂け、頸の名残りが神経や脊髄、筋肉などと共にギザギザになっていた。
「重いのか?」
「持ちます?」』



人によっては、当たり外れもあるだろう。
わらわは【枷】と【ミサイルマン】が気に入っておる。前者は悪魔的な表現の羅列に魅入られ、後者は若者特有の匂いに煽られた。