音楽文サイト終了にあたり、音楽文掲載の日付2020年10月26日でブログに保存しました。
追記/2024年6月、読み返している。書いておいて良かったとつくづく思う。







冷徹な決意

宮本浩次のこれから

お前を踏み付け
ときには寄り添い
こころはメンバー
いす君もう一丁
すげえのヤロウぜ
(折句「男椅子」)
  
2020年10月4日、私は日比谷野外大音楽堂の一角に自分の番号を確認した。エレファントカシマシ野音2020が開催できた奇跡に導かれ私はここに居る。胸がザワザワする。

ところが静かに宮本さんが登場した瞬間から、私はそのゾッとする程の冷静さに最後まで震えることになる。彼はエピック期のレア曲をふんだんに披露した。ソロを経て培った自信に満ちた歌唱で。それは振り幅の激しいセットリストであればある程、この記録に残るエレファントカシマシの31年目の野外大音楽堂コンサートをやり遂げんとする業界人の、プロデューサーの厳しい顔を見せつけたのだ。周りの人達はどう見ているのだろう。皆んなただこの奇跡に酔いしれているのか、それとも私と同じくステージの様子を樹木の頂上から見つめる俯瞰的視線を感じたか。彼はいつからこうだったのだろう。もしかしてかなり以前からなのかもしれない。私が気がつかなかっただけだったのだ。それがよりによって初めての野音でのっけから突きつけられるとは。星の砂、パワー・イン・ザ・ワールドを目を剥いて叫び、何も無き一夜、悲しみの果てと真顔に戻る。演奏のトラブルも仕込まれた演出ではあるまいかとさえ感じてしまう。RAINBOWで周りと同じ様に拳をあげながらも、私はここに居ていいのか自分に問うていた。高揚感だけを有難く享受すればいいものを。レアチケットだぞ。もっと楽しめよ!もっと感動にうち震えろよ!どうしてお前は泣いていないんだ?ここに居る幸運者たちはきっと、私の様な失礼な考えなど微塵もないのだろう。

噂では一時間半で終了という予想だった。雑誌でも「一時間半くらいで代表曲を」(ROCKIN’ON JAPAN10月号)と答えている。それなら最終便の飛行機に間に合う算段だった。ところが第二部があると言う。辺境地方民の私に最後まで留まる選択肢は無い。ああ、エレファントカシマシだぞ、そんな大人しく収まるわけないだろう?何曲やるつもりだ宮本の野郎。配信だ。帰ってから配信を観よう。それでいい。走れよ間に合わないぜ!そして期待していた新曲の発表が無いままタイムリミットが来た。爆音の叫び歌「♪男よ~行け〜!」(男は行く)に文字通り送られながら私は走った。

風通り抜く
にた場所の夢
吹っ飛ばせ闇
かなし気ピアノ
れん打の心臓
てを振る君と
(折句「風に吹かれて」)
  
新曲発表があるとしたら、第二部の後半でやるだろうか。恐らくそれは無いだろう。現状維持を選んでくれただけでも感謝しなければ、それはわかってる。私はいつの間にか身勝手な欲しがりファンになってしまったのだ。その挙句求め過ぎた。悪いのはこちらだ。

帰宅した深夜、録画していたCovers第一夜を観てしまった。
そこには演奏に全幅の信頼を寄せ極上のアレンジに身を委ね華やかなステージで舞い歌う、キラキラの宮本浩次が居た。野音の男は別人か。きっと別人なんだ。他二曲作ったというのも恐らくソロのためなのだ。不安が確信に変わる躊躇もあり、配信を観たのは期限前日だった。振り返って思うにこうではないか。ファンの脳内にそれぞれ自分好みの都合のいいフィルターがあって、視界に入ったエレファントカシマシを彩っている。野音のエレカシというハイブランドにワクワクして必要以上に美化してしまうのかもしれない。そして彼等もその期待される姿に沿わせようとする。まるで物真似されるご本人がモノマネ芸人のテイストにわざわざ寄せてくるみたいに。運良くレアチケットを手に入れられた高揚感と目の前であの宮本浩次が歌っている光景は、多少の演奏トラブルやズレもチャラにしてしまう。そして彼等の野音は凄かった、凄いらしい、凄いに違いないという評価につながる。こんな事を書くとお前などに当たらなければ良かったのに、それならファンなどやめてしまえという定番の返しが予想出来る。そんな意見にはこう答える。「うるさい黙れ。色んなファンが居ていいんだ!」
 
み渡せば世界
やみが覆い
もう息苦しいよマスク
とも達はディスタンス
ひま人はあげつらう
ろう動は汗だくで
じゃあ歌うしかねえ
(折句「宮本浩次」)
  
靴の履き替えは素の彼らしい。高さ何センチの靴でもいい。転んで怪我だけはしないで欲しい。転んだとしても鍛えた体幹で大事にはならないだろうし、私が心配するまでもなく彼は好きな靴に好きな時履き替えるに違いない。自分がスーパースターであると自覚出来るまで彼の旅は続く。参ったなあ、見届けるとするか。
 
のこり何年なんだよお
ぼけても歌わせてくれ
るパンみてえな細脚を
たたんでハイ伸ばして
いク寸前までさお前ら
よの空気カン蹴飛ばせ
うしろは見てられね!

(折句「昇る太陽」「俺を照らせ!」)