わたし、ヨーコ先生は先日、チェロの演奏会に行きました。
それというのも夏に、チェロやヴィオラ、バイオリンなどのカルテット(弦楽四重奏)を劉生容記念館で聴いた時に、弦楽器が床を伝わって響いてくる音の凄さに感動して、驚いて、もういちどあの響きを味わいたいなぁと思ったからです。

劉生容さんとは、台湾出身の抽象画家で、日本の美術館に油絵作品が収められているほどの作家。この建物はその方のご子息、三船文彰さんがお父様の絵を最高の状態で展示、保管するために建てられたそうです。

そしてこの記念館はコンサートホールでもあります。
超一流の演奏者を招いて、それを聴きに来る人々とのご縁を芸術を通してつなぐために何十回ものコンサートを既に開催されているそう。

この日私が聴いた(見た)のは、坂本龍一などとも共演したり、世界各国で演奏を続けているという藤原真理さんという女性チェリストでした。曲はバッハの組曲をチェロ一本で弾くという、絵で言うと「個展」のような実力が如実に表れるもの。

1920年代のスタインウェイと、クララ・シューマンが弾いたスタインベックのピアノに囲まれた空間にチェロを片手に現れたのは、フワッとした雰囲気の小柄な女性。

およそ200年以上前の作曲家バッハのバロック音楽を
およそ300年前に制作されたガルネリと呼ばれるチェロで奏でるコンサート。

聴きはじめて少しして、今まで感じたことのない感覚を覚えました。
「どう聴いたらいいんだろう…」

「ひょっとしたら私、猫に小判かも…」

「渋い音だなぁ…」

プログラムはMCを挟んで三部に分かれ、明るい感じの曲、落ち着いた短調の曲などにまとまっていました。
奏者の藤原真理さんは、休憩の度に小さな声で楽器やご自身の演奏活動で滞在したところなどについてお話してくれるのですが、恥ずかしながら楽器や音楽には全く造詣深くない私、回りにいるいかにも音楽に詳しそうなお客さんの間で最初は身を縮めていたのですが、お話を聞くうちに、運命の巡り合わせで手に入れたガルネリという楽器に対する繊細な扱い方、楽器を使いこなすというよりはむしろ仕えるというほどのリスペクト、楽器のしくみについての解説が心に染み込んできました。

そして、「音形」という言葉を使った、「ここに行きたいからこの音形」という説明は、ジャンルは違えど絵画との共通項も見いだせると感じました。

解説を聞くごとに自分の楽曲への理解が少しずつ深まったように感じ、最終に近づくにつれて、時間を追って消えていく、音楽という分野についてもっと考えたくなりました。
奏者の演奏も終わりに近づくにつれ滑るようなしなやかさと力強さを増し、抜群の音響を体で受け止めて、ホールのオーナーの三船さんがおっしゃった“一流の芸術家”の意味がリアルに実感できたと思いました。
300歳の古い楽器が醸し出す倍音の複雑な音色、湿度に音が影響される繊細さ。

よい演奏を聴くと、いろんなことを考えたくなったり、感じたり、先日お邪魔した曹源寺の座禅のように頭が真っ白になっていきます。
そして、アーティストの身体性もまた大切な要素。
絵も、うでを一杯に使って描きますが、音楽と同様リラックスして集中することが大切です。

文化や芸術を味わうときには、すぐに理解できないからと言って諦めるともったいないです。
一流の、わかりやすい解説を真摯に聴いて、集中して見る、聴く!
感じる心をみなさんにも大切にしてほしいと感じた一日でした。



(文中の名称の表記は劉生容記念館三船文彰様に許可を頂き掲載しています)