ちゃんぽんと長崎華僑 | 新書野郎

ちゃんぽんと長崎華僑

ちゃんぽんと長崎華僑—美味しい日中文化交流史 (長崎新聞新書)ちゃんぽんと長崎華僑—美味しい日中文化交流史 (長崎新聞新書)

長崎新聞社 2009-10
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この長崎新聞新書は大分前に軍艦島のヤツを読んだのだが,地道に刊行を続けていたのか。地方紙も経営が苦しいところが多いと聞くが、何とか踏ん張って欲しいものである。その効果が出たのか分からんが軍艦島も観光化されたので(ほとんど自由には歩けないそうだが)、長崎新地の観光振興にも一役かってもらおうということなのか四海楼4代目に執筆の依頼が来たのだとか。このちゃんぽん、皿うどん発祥の店については全国区で有名であり、NHKアーカイブスで昭和40年代の店の様子なども視た事があるのだが、今回、四代目がまとめた一族の長崎での軌跡は非常に興味深い。斎藤茂吉や吉屋信子といった人も登場するのだが、茂吉が四海楼の長女と疑似恋愛関係にあったり、吉屋が店でしこたま酔っぱらったというのは、ちょっと意外な感じもする。著者は4代目であって、血縁的には日本人の血の方が濃いこともあるのだが、所謂「歴史認識系」の話は一切なし。日中戦争時も長崎の華僑は、帰国せず、日本の庇護のもと暮らす事を早々と決定したそうだが、その苦難の時代の記憶よりも原爆という悲劇を長崎市民として日本人と共有したという「記憶」の方が大きい様だ。二代目は現常陸宮と現皇太子である浩宮が店を訪れて,ちゃんぽんを気に入ってお代わりまでしたことを名誉にしていたそうだが、当初用意されていたフルコースは宮内庁の方から当人は学生の身分であるからということで辞退されたとのこと。著者の代になると、華僑学校に通う者も少なくなったそうだが、開校時は三江、広東、福建と出身言語別にクラスが編制されていたらしい。著者自身も中国語は喋れないそうだが、華僑子弟間の交流もなくなり、ランタンフェスティバルの前身の春節祭で知人に勧められるまま獅子舞に参加した際,初めて顔を合わせた華僑が多かったのだとか。後半は長崎華僑の祭事解説で、これは付録みたいなものか。国慶節はあるが双十節がないことで、長崎華僑の立ち位置は分かるが、とにかく政治臭のする話は一切ない。
★★★