洋行の時代
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「岩倉使節団から横光利一」までと副題にある。このテーマについて書かれた本はよくあるのだが、その著者はポスト「洋行」世代の留学組が多い様な気がする。この著者もその例に漏れることはないのだが、71年からのフランス給費生だという。まだ「留学」も海外旅行も大衆化する前だから、自身が日本代表として海外で見聞を高める知識人という自負があったのだろう。そうした気負いも、意気込みも消沈させる現実と彼の地で遭遇すると、日本が「アジアの片隅の国」だった時代の先輩たちの生活に関心が行くのは必然的なものかとも思う。著者はパリで森有正の知遇を得るわけだが、なるほど森有正の「洋行」と父、森有礼の「洋行」の間に近代日本が辿ってきた「他者」へのまなざしと、「他者」からのまなざしの変化が読み取れる。「洋行」が遠藤周作がいみじくも名づけた「ぼくたちの洋行」の時代で終了するのは、単に航路の終焉という物理的な意味だけではなかろう。森有正が自らを実験台としたのも、「東洋的自我」からの解放であったのだろうが、その意味では、このテーマの代表例とされる漱石や鴎外よりも、バロン薩摩、金子光晴、大杉栄といった、はじめから「国家」の埒外にいた人間の「洋行」が、やはり興味深い。南方熊楠がキューバで曲芸団に加わっていたとは知らなかったが、「東洋」も「西洋」も克服する必要がないボヘミアンの魅力は今の時代でも、そう変わるものではなかろう。
★★
