伝説の日中文化サロン 上海・内山書店
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この著者は東京水産大学を卒業した東海大の名誉教授なのだが、スペイン文化の本を多く出していたと思ったら、最近は近代史ノンフィクション作家みたいになっていて、よく分からん履歴。上海を舞台にしたゾルゲ事件のノンフィは前に読んだのだが、その延長みたいな内山書店物語。ゾルゲにしても、内山にしても史料にも評伝にも事欠かないから、物語としてまとめるにそれほど苦労はないんだろうが、やはり書き慣れているというか、「研究者」ではなく、「作家」の仕事みたいなものを感じる。内山完造と魯迅の交流だけで新書ならいっぱいいっぱいになってしまうところなのだが、そこに尾崎やスメドレー、郭沫若といった重要人物の半生までちゃんと絡ませた大河ドラマを新書の枠内で仕上げてしまうのはさすが。ちなみに郭と魯迅は直接接点がなかったとのこと。谷崎をはじめ、上海を訪れる日本人の中国文人との橋渡しとなっていたのが内山という人なのだが、その人間的スケールの大きさにはあらためて驚かされる。当然ながら、魯迅が内山のその「中国熱」に辟易した様に、内山自身で「脚色」した部分もあるのだろうが、日本で丁稚をしていた時には、手のつけら様がない問題児であったとは意外。キリスト教信仰と出会ってそれが一変したというのも、何かブッシュみたいな話なのだが、「日貨排斥」の埒外にあったという大学目薬の話はどうなのだろう。これについては軍のスパイ任務であった可能性も取り沙汰されているのだが、多かれ少なかれ、在留日本人がそうした世界とは無縁ではなかっただろう。となると、後年の内山は「覚醒」したのか。それとも「義侠」だったのかという疑問も残るのだが、延安派の共産党との関係が全く出てこないのも妙な気がする。帰国した後、新中国に遇され、50年代の北京で客死した訳だが、とりあえず、中共としては「中日友好人士」の象徴として祭り上げておく方針は変わっていない様だ。
★★
