幻の大連
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この著者の大連ものとか、通化事件ものは前に読んだ記憶はあったのだが、大正五年生まれか。この年で新書書き下ろしというのはスゴイが、敗戦時29歳。リアルな記憶で外地ものを書ける世代は記憶を失いつつあるし、少年期の記憶で書いている世代は記憶をどうしても戯画化してしまうので、そろそろオラヒスを大々的に実施する必要があるのではなかろうか。現地では完全に教条化された記憶しか残すことを許されない訳だし、この本に出てくる様な「親日的な」中国人は既に死に絶えたであろうから。その意味では.、なんてことがない昔話でも「幻の大連」として新書に残るのは意義があるというものである。川島芳子の話なども出てくるが、当時の「有名人」の位置づけがどんなものなのかが分かる。児玉邸殺人事件の勝美夫人というのも、ゴシップ好きな女子学生にとっては芳子同様、興味が尽きなかった女性だったのだろう。船で話をしたという甘粕のボディガードがアントニオ猪木に似ているというのは、後発的な記憶であるかと思うが、当時の大連連絡船がナンパの場になっていたことには注目。あの息苦しい時代にあって、列島からも大陸からも離れた船内というのは若い男女が大っぴら(でもないか)に接することができる貴重な場所であったのかもしれない。内地への「留学生」たちににとっては合コンみたいなものあった様だ。タイタニック然り、乱パ船の異名も持つ某世界一周平和船然り、船旅というのはそういうエロスの香りが充満した世界なのであろう。完全に空優位が確立してしまった現在では、老舗の鑑真丸も衰退が激しいと聞くが、イマドキ、船で大陸に渡ろうとする人たちはこういう世界を求めているのかもしれない。ちょっとスケジュールなどを調べてみるか。
★★
