イラクは食べる  | 新書野郎

イラクは食べる 

イラクは食べる―革命と日常の風景 (岩波新書 新赤版 1125)イラクは食べる―革命と日常の風景 (岩波新書 新赤版 1125)
酒井 啓子

岩波書店 2008-04
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イラク報道がすっかり減った今日この頃、なんか元スターといった感じもする著者なのだが、芸能人ではないので、ちゃんと外大教授のポストに着いて、今やイラク本のご意見番としてヨロシクやっている。そのクールな解説とは裏腹に、著作は難解なものが多かったのだが、久々に新書を出してくれるのはうれしい。この企画は岩波の仕業かどうか分からんが、イラクの土地土地の名物料理のレシピなどを載せ、その土地ではこんなことが起きていますよといったスタイル。新書なのに、複雑怪奇な政治構造を語られては敵わんと岩波がストップをかけたのかもしれん。ところが、そんなことお構いなしに、イラク料理は、ほんのオサワリ程度に収め、言葉もロクにできない左翼ジャーナリストとか、戦場ジャーナリストとかがどう逆立ちしても書けない、「報道されないイラク」を教えてくれるからタマラン。私生活が謎に包まれているという酒井先生が実際に料理をするのかどうか分からんが、とにかく、戦争だ、戦争だと大騒ぎした野次馬のせいで、消化不良だったイラクを見事に料理してくれた。イラクにおけるペルシャ、トルコの影響とか、宗派別対立という単純な見方ができないことだとか、とにかく勉強になる。イラクがアラブの異端であったのはサダムのせいではなく、古来よりの文化的十字路というバルカン的理由によるところが多そうだ。イラク人と日本というテーマは「戦争前」を知る人だからこそ、語れるものであると思う。薄っぺらい「反米」感情だけで、イラク人に同情することをも戒めている様にも思える。湾岸戦争後のクルド人の歴史は、すべて「虐殺からの解放の歴史」であると断言してもよいとしているが、これからのイラク人の歴史は「米軍からの解放の歴史」となるのであろう。原爆を落とされた日本人が「解放の歴史」と全く逆の道を歩んでいることはイラク人ならずとも世界の人々が不思議に思っていることである。中国人もそう思っていることは、日本が米国の僕であることを最大の侮蔑対象としていることからも明らかであろうし、韓国人も反米感情に優越感を持っている感じがする。それを思えば敵を「戦争」と抽象化し、「平和」への解放に昇華させてしまった日本は世界に類をみない新しい歴史を作ったとも言えるのだが、それを奉じてるはずの「九条平和教」の人たちが、米帝に抵抗することを至上とする「解放の神学」に魅せられているのだから苦笑してしまうのである。
★★★