パリとセーヌ川
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たしかにパリをテーマにした本というのは掃いて捨てるほどあるのだが、その辺を考慮して、セーヌ川というファクターを通したパリをテーマにしたのだという。「テムズ川の水上交通」というのが研究テーマだったのは、現皇太子なのだが、かつてパリがフランスを代表する港だったというのは、やはり意外なものである。なんでも鉄道より早く蒸気船が開通したとのことで、フランスもまた、水上交通が内陸輸送の担い手であった時代が長かった様だ。そうした経済面に加え、著者の専門である小説、絵画といった文化的アプローチに、川と人との関係を変えた架橋についても論ずる。川のある街に育った人にとって、川というのは容易に原風景の記憶を引き出す手段となろうが、パリが世界文化の首都だとすれば、セーヌ川というのは文化人の心象風景に響くものがあるのだろう。隅田川や淀川をテーマに外国人がこの様な本を書くことはあまり考えられないのだが、土左衛門の話などもあって、近世までの川と人々の関係性はセーヌも隅田川も大して変わらぬものだった様だ。高速道路で塞いでしまったり、暗渠化したりすることは最近でこそ悪名が高いものだが、絶えず変化していかないと生き続けられない「アジア」と「停滞するヨーロッパ」の相違を表す風景なのなかとは思う。
★★
