国際保健政策からみた中国  | 新書野郎

国際保健政策からみた中国 




大谷 順子
国際保健政策からみた中国―政策実施の現場から (九大アジア叢書 8)

「九大アジア叢書」もなかなかお目にかかれないと思ったら、改称してからまだ4冊しか出てなかったのか。中国の石炭政策のヤツが新刊みたいだけど、九大でもやはり「アジア」は中国か。ということで、こちらも自給自足の九大の先生が書いた本。人口からエイズ、環境、サーズ、タバコに酒まで一通り、説明がなされている。そうした基本事項が報告書チックになるのは、著者が元WHO(初の)中国駐在日本人職員という人だったから。ちなみに世銀(初の)日本人保健専門家という経歴でもあるそうだが、世銀にそんな専門職があること自体知らなかった。とはいえ、一応新書タイプなのだから、教科書ではなく、読み物としての色をつけることに苦心した跡は覗える。新書なのに複数の人からコラムを募って、その筋の専門からのナマの報告を載せるようにしていたりもする。中国についての本を出すのが長年の夢だったそうだが、なんでも、ジュネーブ本部勤務を辞してまで、九大に赴任したのも、「中国に近い」からという理由だそうだ。それだけ恋しいという中国なのだが、本文からは全くその気配が伝わってこないのも「国際公務員」の「品格」ということなのだろうか。サーズの時も中国勤務だったそうで、その裏話などは興味深い。WHOの下部組織が、純粋な地域割りになっていなくて、モンゴルが「モスクワで教育を受けたから」という理由で、ヨーロッパに入ったり、パキスタンが「インドと一緒はイヤだ」と地中海に入ったり、タイが「東南アジアに中国が入るなら大国扱いされないからイヤ」と日本が入る太平洋に行ったりといった事情は面白い。しかし、当時の中国最大の「WHO問題」とは、台湾問題であったろう。あの時の恨みを「台湾人民」は決して忘れない訳だが、その点については完全に無視。この辺は「国際公務員の品格」ではなく、「中国が恋しい」という旧国立大教員の事情を表しているのかもね。
★★