オリエント急行の時代
平井 正
オリエント急行の時代―ヨーロッパの夢の軌跡
オリエント急行は最近復活したりしている様だが、その第一号が走ったのは1883年というから大変なものだ。ただ、その黄金期は1900年代前半までだった様で、オリエント急行と称する列車が乱立したこともあったが、欧州全土を巻き込む戦禍の時代に入ったことが、夢の大陸縦断鉄道の生命線をも断ち切った。戦後も東欧が鉄のカーテンの向こう側になってしまったり、航空路が発達したこともあって、二度と黄金期を迎えることはなかった。タイトルが「オリエント急行の時代」となっていることからも分かるように、オリエント急行そのものよりも、オリエント急行が走った時代の、その通り道である東西欧州史、オスマン帝国史概説といった趣の本。著者も何とか本題のオリエント急行に戻そうとするのだが、西洋史家としては、その背景を理解していなきゃダメだよといったところがあったのかもしれないし、オリエント急行ネタだけで紙幅がもたなかったかもしれない。しかし、やはり著者の狙いとしては読者に、オリエンタル急行を追体験させるところにあったのではなかろうか。その意味では車窓の向こうにみえる国がどんな国だったかを知ることは追体験としては欠かせない。もちろんアガサ・クリスティーやマタ・ハリ、ジョセフィン・ベイカーといったアクターたちについても触れているので、車内でも退屈はしない。我々の時代はユーレイルパスなんてのが欧州旅行の定番だったが、今では格安航空に太刀打ちできないだろう。オリエント急行のみならず、欧州鉄道旅行が金と時間のある者の愉しみになる日は近いのかもしれない。
★★