アメリカの中のイスラーム  | 新書野郎

アメリカの中のイスラーム 



大類 久恵
アメリカの中のイスラーム

最近は雨後のタケノコというか、バカの壁後のタケノコといった感じで、新しい新書が創刊されているのだが、この寺子屋新書というのは子どもの未来社という版元らしい。そのネーミングは悪くないのだが、一発打を狙うなら新潮や光文社みたいな軽チャー路線で行くしかないだろう。いずれにしても、大手系でないところは、大規模以外の書店で見かけるのは稀なのだから、私みたいな新書も図書館派のドケチ人間は増々読む機会はない。ということで、これが寺子屋デビューになるのだが、テーマ的にはかなりいい感じ。ただ、内容は予想通りというか、可もなく不可もなくといったところ。著者はアメリカ史プロパーということで、研究テーマであるマルコムX、ネイション・オブ・イスラムについての記述に頁数がさかれ、新移民や白人改宗者については少ない。前者の多くがIT技術者をはじめとするホワイトカラーで所得水準高く、後者がヒッピームーブメントに端を発すスーフィズム系教団の信徒か、結婚によって改宗した者というのはデータ的には正しいのかもしれないが、NYのタクシードライバーやアルカイダの改宗アメリカ人戦士みたいな、眼に見える存在にも言及して欲しかった。もっともアメリカの中のイスラームという文脈であれば、その大多数がNOIを嚆矢とする黒人系イスラーム運動にあることは間違いないところだ。エライジャ・ムハンマドからマルコムX、そしてルイス・ファラカンに至る運動の流れは、さすがに分かりやすくまとめてある。私もてっきりルイス・ファラカンがNOIを継いでいるのかと思っていたが、現在のNOIは分派で、元祖の方はエライジャの息子であるウォレスが継いでいるのだという。そこには黒人選民思想と世界宗教としてのイスラームの教義的対立があった訳だが、マルコムXの遺族も絡んだ暗殺騒ぎがあったかと思えば、和解があったりと、アフリカ系アメリカ人社会の利点と弱点を表している様で興味深い。元々アフリカから連れてこられた奴隷の20%から30%はムスリムであったという説もあるくらいなので、これには先祖回帰という見方もできるのだが、現在、アメリカが戦っている戦争については、アメリカ国民であるということがます優先されているらしい。それは第二次世界大戦で一部が日本軍を支持してしまったという失敗の反省があるのかどうか定かではないが、たしかに冷戦期も政治にコミットすることは少なかった。イラクやアフガンはともかく、現在アメリカが宣伝に力を入れているダルフールの黒人対アラブ人のイスラーム教徒同士の戦争を彼等はどう位置づけているんだろうか。
★★