痛みの理論 

痛みが心理的要因と密接な関係にある事は、経験的に認められてきたが、具体的にそれを説明するために、古くから多くの説が唱えられてきた。

ゲートコントロール説

現在では否定されているが、1965年(昭和40)年に心理学者のメルザックと解剖学者のウォールにより、ゲートコントロール説と呼ばれる理論が提唱された。ゲートというのは「門」と言う意味である。この説におけるゲートは脊髄に存在し、痛み刺激はこのゲートを通って伝えられる。つまりゲートが開くと、痛み刺激はゲートを通って脳に伝わり痛みを認知するが、ゲートが閉じると通過することができないため脳まで伝わらず、痛みは感じない。すなわち同じ痛み刺激であっても、ゲートの開き具合によって、痛みの感じ方が違ってくると考えられていた。しかし、現在ではゲートコントロール説自体が否定されるようになった。ゲートの開閉に関与する因子として、以下のようなものがある。

 

「1」太い神経と細い神経

痛み刺激は、太い神経と細い神経で伝えられるが、細い神経で伝えられる痛み刺激はゲートを開き、太い神経で伝えられる痛み刺激はゲートを閉じるようにはたらくと考えられている。私たちが痛い時にその部分を押さえたり、さすったりすると痛みが和らぐのは、押さえたり、さすったりすることにより、太い神経が刺激され、ゲートが閉じ、痛みが伝わりにくくなるためである。

 

「2」気分

気分はゲートの開閉に大きく関与している。気分が良いときにはゲートは閉じ、気分が悪いときにはゲートが開くようにはたらく。患者が昼よりも夜に痛みを訴えることが多いのは、暗くなることや、孤独になることなどで不安が増し、ゲートが開くためである。

 

「3」認識制御

ゲートの開閉は、その人の不安、予期、過去の痛みの経験といった、その時点での認識や知識によっても影響を受ける。同じような痛みであっても、どうして痛いのか全く理解できないようなときには、ゲートを開くように働く。また痛みがその人にどのような影響を与えるかによっても、痛みの感じ方が違ってくる。この認識制御と言う機構は、医療の場で非常に重要な役割を持っている。患者は未知のことを、予期できないことにぶつかると、不安が増し、ゲートが開いて痛みは強くなる。したがって、あらかじめ十分な説明と処置や検査等の予定を話しておくことによって、ゲートを少しでも閉じるようにすることが大切である。

 

「4」下行性抑制系

ゲートを通った痛み刺激は脳に伝わり、痛みを認知するが、痛みを認知した脳はゲートに対して、そのゲートを閉じるように働く。この機構を下行性抑制系と言う。

 

「5」作動性機構

ゲートを通った痛み刺激は、痛いので泣く、歯を食いしばる、顔をしかめるといった、感情的活動や運動活動にも一連の反応を引き起こす。これらの反応は下行性抑制系に働き、ゲートを閉じるようにする。

臨床看護総論より

つづく

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