ある日突然、父が死んだ。

ある日突然、父が死んだ。

35歳、独身、女性、ひとりっこ。そしてわたしは喪主になった。

その日と今を、行ったり来たりしながら書いていきます。


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実家から東京に戻ってくる、気持ち上の口実だった、

エリカさんの占いの日。



お土産の花を買い、エリカさんの待つ日暮里へ。



何を見てもらいたいのか、これといってハッキリしたことがなかった。

だから、久しぶりに会ったエリカさんにもそんな風に伝えた。



そして始まった、30分間。



エリカさんの占いは、手相から始まる。

わたしの手を見て、エリカさんはふと聞いた。


「えみさんのお父様は、もしかして白髪で短髪の痩せた方ですか?」


「・・・はい。お腹は出ていましたけど痩せて見えます」


「角刈りみたいな感じ?」


「はい・・・」



白髪で角刈り風の短髪を、最後までなでた記憶がよみがえる。



「ああ、やっぱり。2、3日前に来ていましたよ、お父さん」



・・・来ちゃってましたか。



「好きなようにやれ。 誰かの犠牲になるようなことはしなくていい。 愛しているよ、って」



・・・。

愛してるなんていう柄じゃないでしょ、父。



ああ、でもここに来ようと思った時、

なんでなんにも言ってくれないの、って父を心の中で責めたっけ。


だからエリカさんの力を借りたのだね、きっと。



すべてをまっとうして逝った、と、

たくさんの光に包まれていた、と、

エリカさんは言った。


愛など口にするはずのない、昭和の男から出た

「愛しているよ」は、


父がこの世にもういないことを、あの世に逝ってしまったことを

実感させた。



そしてわたしはこの夜、

父を想って、ほぼ初めて泣いた。 (意識のあるときに)



悲しみは、ふとしたときにやってきて、

BGM3曲分くらいで、優しく去っていく。







その日わたしは、新しく始まる仕事の打合せがあって、

朝から珍しく、取引先に出向いていた。


いつもなら、朝から出社し、デスクワーク。

携帯はデスクの上に置いて、いつでも見られるようにしておく。



・・・こんな時に限って。



数時間後そう感じることになるのを、この時のわたしは知らない。


新しく始まるプロジェクトに、うまくやっていけそうな取引先のメンバー。

わたしはワクワクしていた。


だから、話も弾み、取引先を出たのは11時過ぎだった。



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駅までの道すがら、いつものように携帯を見る。

すると、そこには間違いなく異常な事態を知らせる、

田舎の親戚からの着信、メール、留守電。



田舎の両親に何か起こったんだな。

・・・父だろうか。母だろうか。



深呼吸をしてから、留守電を聞く。


「えみ、おばちゃんです。この留守電を聞いたら、誰にでもいいから電話をください。

落ち着いてね。」


冷静に。冷静に・・・  言い聞かせて電話をする。


「あ、おばちゃん?」

「えみか。落ち着いて聞いてな。

お父さんが事故に遭って病院に運ばれた。落ち着いて、帰る準備して戻っておいで。

急がなくていいから。

お母さんは、今一緒だから。病院に向かってるから。

落ち着いて戻ってくんだぞ」



父、か。

事故、か。



父・御年83才。

いくら言っても、バイク(農業バイク。50cc)に乗るのを止めてくれない、

きかんぼうで頑固な大正生まれの男だ。



きっと、趣味の将棋をうちに行く途中に事故に遭ったに違いない。

・・・だから言ったのに。



とにかく、

とにかく、帰らなければ。



どっち行きの電車に乗ればいい?

会社に連絡しなくちゃ。




わたしは、初めて来た町で、混乱する頭を必死に動かそうとしていた。