この時、素戔嗚尊は安芸の国の可愛の川上に降り立たれました。
そこには国つ神がいて、名を脚摩手摩(あしなづてなづ)と言い、
妻の名を稲田宮主簀狭之八箇耳(いなだみやぬしそさのやつみみ)と言いました。
この神は身ごもっていましたが、夫婦ともに心配そうな顔で素戔嗚尊に
「私たちが生んだ子は多いのですが、生むたびに八岐大蛇がやって来て吞んでしまい、一人も生きながられることが出来ません。今また生まれようとしていますが、また吞まれてしまうと思うと、悲しくなってしまいます」と打ち明けました。
素戔嗚尊は、
「お前たちは沢山の果実で酒を甕八つ分醸せ。私がお前たちの為に蛇を退治してやろう」と教えられたので、二神は仰せの通りに酒を用意しました。
そして出産のときになると、大蛇が現われ、その子を吞もうとしました。
素戔嗚尊は大蛇に
「そなたは畏れ多い神です。おもてなしいたしましょう」とおっしゃって、
八つの甕の酒を、それぞれの口ごとに飲ませたところ、大蛇は酒を飲んで眠ったので、素戔嗚尊は剣を抜いて斬りました。
尾を斬った時に剣の刃が少し欠けたので、
尾を裂いてご覧になると剣がありました。
これを草薙の剣と言います。
この剣は今、尾張国の吾湯市村(おわりのくにのあゆちのむら)にあり、熱田の祝部(ほうり)がお祀りしている神です。
(※現代で名古屋に鎮座する熱田神宮のこと)
また、大蛇を斬った剣を「大蛇のあらまさ」と言い、これは今、石上(いそのかみのみや)にあります。
(※現代で奈良県に鎮座する石上神宮にあると伝えています)
その後、生まれた真髪触奇稲田媛(まかみふるくしいなだひめ)を出雲の国の簸の川上に移して育てました。
そして素戔嗚尊が妃とされ、生まれた御子の六世の孫を
大己貴命(おおなむちのみこと)と申します。