NCAAの新時代:「ハウス和解」がアメリカ大学ラクロスを揺るがす
ハウス訴訟(House v. NCAA)2025年、アメリカの大学スポーツ界に大きな転換点が訪れました。「ハウス訴訟(House v. NCAA)」の和解により、NCAA(全米大学体育協会)は数億ドル規模の補償金を支払うことで、長年続いてきた学生アスリートの無報酬制度に終止符を打つことになりました。この動きは、大学スポーツの「アマチュアリズム神話」が崩れた瞬間でもあります。フットボール、男子・女子バスケットボールほどの影響はないものの、ラクロスに今回の和解がもたらす影響は計り知れません。このブログでは、その内容を紹介します。NCAAの“アマチュアリズム”神話を覆した歴史的裁判「ハウス訴訟(House v. NCAA)」とは、NCAAに対して学生アスリートたちが「収益を不当に制限されてきた」として起こした集団訴訟です。正式には、アリゾナ州立大学の元選手ショーン・ハウス(Shawne Alston)らを中心とした複数名が原告となり、2019年にカリフォルニア州で提起されました。この訴訟の核心は、次のような主張にあります:大学スポーツが莫大な収益(放映権、スポンサー契約、観客収入など)を上げているにもかかわらず、その中心でプレーしている選手たちには報酬が一切支払われず、NCAAによってその権利すら認められていないのは不当である。なぜこの訴訟が重要だったのか? NCAAが選手に報酬を払うことを一律に禁じていたことが、反トラスト法(独占禁止法)に違反している NIL(Name, Image, Likeness)権の制限も、選手の経済的自由を侵害している 選手たちは「奨学金以上」の金銭的価値を大学にもたらしており、対価を受け取る正当な権利があるこれらの主張が裁判所に認められ、NCAAは2024年に約28億ドルとも言われる和解案を提示。学生アスリートへの報酬支払いが合法化・制度化されることが確定しました。どこが「歴史的な転換点」なのか?ハウス訴訟による和解は、次のような抜本的な制度改革をもたらします: 各大学は選手にチケット、スポンサーシップ、そして多大なテレビ放映権からの収入の一部を報酬として支払うことが可能になる(年間最大約2,000万ドルまで) NIL(肖像権・ネームバリュー)による個人契約と並行して、チームとしての報酬制度が整備される 「奨学金+報酬+NIL」という三層構造により、アスリートの収入機会が大きく広がるこれはつまり、大学スポーツが「教育の延長」から「収益ビジネス」へと完全に移行することを意味します。和解の概要:なぜこれが大きなニュースなのか?この和解により、NCAAは選手への収益分配を正式に認め、最大で年間2,000万ドル(約30億円)をチームごとに配分できる新しい報酬制度を導入する方針です。これにより、大学アスリートがプロのように金銭的補償を受け取ることが可能となり、大学スポーツ=教育の一環という構図が大きく揺らぐことになります。ほとんどの収益はフットボール選手や男子、女子バスケットボール選手に分配されますが、ラクロス選手にも収益は分配されます。米国の大学ラクロスにとって何を意味するのか?対象となる大学チーム今回の和解の直接対象となったのは、NCAAとパワー5といわれるスポーツで大きな収入を得ているリーグとその所属校です。男子ラクロスではACC、Big Tenに属する以下のチームがこの和解の影響を受けます。 ACC:デューク、バージニア、ノートルダム、ノースカロライナ、シラキュース Big Ten:メリーランド、ジョンズホプキンス、ペンステート、ラトガース、ミシガンこれ以外のリーグの大学も、和解の内容を受け入れることで、ACCやBig Tenの強豪校と選手獲得で正面から競い合うことは可能です。しかし、すでにアイビーリーグ(元々スポーツ奨学金を支給しない)や、ペイトリオットリーグ(スポーツ奨学金は出すものの、学業重視の姿勢を保つ傾向)が、不参加の意向を示しています。これらの大学は、奨学金で選手を惹きつけなくても、大学としてのネームバリューや教育環境の魅力によって、一定数の優秀な選手を獲得できると判断していると考えられます。また、ペイトリオットリーグには、授業料が原則無料となる軍士官学校(ネイビーやアーミー)が所属していることも、参加を見送った一因と見られます。ラクロスはフットボールやバスケットボールに比べて収益性の高い競技ではありませんが、今回の「ハウス訴訟」の和解により、「選手に報酬を出せるかどうか」が大学の戦力に直結する時代が到来します。資金力のある大学がさらに有利に男子ラクロス(NCAA Division I)では、もともと1チームあたり最大12名分の授業料相当の奨学金("12.6 scholarships")が認められていました。この12名分は、選手の能力や将来性、リクルート時の交渉結果などに応じて、複数の選手に“部分給付”として分配されます。 フルスカラシップを与えられる選手が2〜3人 半額や4分の1などの給付を受ける選手が多数 無給(ウォークオン)でチーム入りする選手もいるこれに加えて、今回の和解により次のような新たな金銭的支援が可能となります: 大学独自の報酬枠(年間最大約2,000万ドル/チーム) NIL契約(Name, Image, Likeness)によるスポンサー契約やSNS収入たとえば私立名門のデューク大学では、従来から年間で約1億2,000万円(約80万ドル)相当の奨学金をラクロス部に割り当てていましたが、今後はこれに報酬やNIL収入が加わることで、トップ選手への“魅力的な待遇”が事実上青天井になります。フットボール選手やバスケットボール選手は、高級車の貸与や、プライベートジェットの権利が与えられますが、ラクロス選手はせいぜい生活費補助が付与される程度ではないでしょうか。いずれにしても、強豪校(メリーランド、デューク、バージニアなど)はこれまで以上に、 奨学金+報酬+NILサポートの三段構えで有望選手を獲得できるようになります。一方、十分な財政的支援ができない中堅校や小規模校では、「報酬なしで来てくれる選手」のみに依存する体制となり、リクルート競争力において格差がさらに拡大していくことになります。このように、奨学金の上限に縛られない「報酬時代の到来」は、米国大学ラクロス界の勢力図に根本的な変化をもたらす可能性があります。