中国では、司法は判例主義を取らず、法解釈はすべて最高人民法院で決定し、各下級法院はその法解釈に従うことが原則です。しかも2審制。


現在、最高人民法院は、各高級人民法院に対し、「現在の経済状況下における知的財産権訴訟についての若干の問題に関する意見」(意見)を公布しており、広く意見聴取に努めております。


日本知的財産協会において、先だって訪中訪問団を組織し、専利法、実施細則における法解釈を明確にするための司法解釈の策定を最高人民法院にお願いし、その甲斐あってか、最高人民法院も意見聴取を行っております。

この動向について日本で関心が高まっております。


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以下に最高人民法院-司法解釈を紹介



特許権侵害に係る紛争事件を正しく審理するために、「中華人民共和国特許法」、「中華人民共和国民
事訴訟法」等の関係法律の規定に基づき、裁判の実情を参酌して、本解釈を定める。


第1条 発明又は実用新案特許権の保護を求める権利者は、その主張する請求項を明確にしなければ
ならない。裁判所は、権利者が主張する請求項に基づき、特許法第59条第1項の規定に照らして特許権
の権利範囲を特定する。権利者が、第一審の法廷弁論が終わるまでにその主張する請求項を変更する
場合、裁判所はその変更を認めるものとする。
第一審の判決前に、権利者が主張する請求項が無効とされ、特許権がその他の請求項により有効とさ
れ、権利者が当該その他の請求項に基づいて特許権の権利範囲を特定するよう請求する場合、裁判所
はその請求を認めるものとする。上述の無効事情が第一審の判決後、第二審の判決前に発生したもので
あり、権利者が、第一審で主張していなかった請求項に基づいて特許権の権利範囲を特定するよう請求
する場合、第二審の裁判所は当事者自由意志主義に基づいて、その新たに主張される請求項について
調停を行うことができる。調停が成立しない場合、権利者に別途提訴するよう通知する。権利者がすでに
主張した請求項について、第一審の裁判所が裁判しなかった場合、第二審の裁判所は、当事者自由意志
主義に基づいて調停を行うことができる。調停が成立しない場合、裁判を差し戻す。ただし、裁判されな
かった請求項が侵害の判断に影響を及ぼさない場合は除く。
権利者が、従属請求項に基づいて特許権の権利範囲を特定するよう主張する場合、裁判所は、その従
属請求項の付加要件及びその従属する請求項の構成要件に基づいて、特許権の権利範囲を特定するも
のとする。


第2条 裁判所は、当業者の立場から明細書及び図面等を読んで理解した請求項の内容に基づいて、
発明又は実用新案特許権の権利範囲を特定するものとする。当業者の立場から理解した請求項の内容
が、請求項の文面の意味と異なる場合、当業者の立場から理解した請求項の内容に基づいて、特許権
の権利範囲を特定する。
特許権の権利範囲は、特許の発明の目的と一致しなければならず、特許の解決しようとする従来の
技術の欠陥又は問題点を持つ発明を包含してはならない。


第3条 裁判所は、明細書及び図面、特許請求の範囲におけるその他の請求項、特許審査書類を用
いて請求項の関係内容を解釈することができる。明細書には、請求項の用語について特別な説明があ
る場合、その特別な説明を請求項の用語の意味とする。上述の方法によっても請求項の用語の意味を
判断することができない場合、辞書、教科書等の公知文献及び当業者の通常の理解を参酌して解釈す
ることができる。


第4条 特許法第59条に規定する「発明又は実用新案特許権の権利範囲」は、請求項に記載の構成
要件により特定される範囲を含む。権利者が、特許権の権利範囲に、均等な要件により特定される範囲
が含まれていると主張する場合、裁判所は、その均等な要件に基づいて特許権の権利範囲を特定する
ものとする。
前項にいう均等な要件とは、請求項に記載の構成要件と基本的に同一の手段により、基本的に同一
の機能を実現し、基本的に同一の効果を達成するものであって、当業者が侵害行為の発生時に創造的
な努力をせずとも思い付く技術的事項をいう。


第5条 請求項には、機能又は効果により表現される構成要件がある場合、裁判所は、明細書及び
図面に記載された当該構成要件の実施形態及びその均等形態に基づいて、当該構成要件の内容を特
定するものとする。


第6条 特許請求の範囲に記載されておらず明細書又は図面のみに記載された発明について、権利
者が特許権侵害訴訟において特許権の権利範囲に当該発明が含まれていると主張する場合、裁判所
はその主張を認めない。


第7条 特許の権利化又は無効審判の手続きにおいて、特許出願人、特許権者が自ら又は審査官の
要求に応えて、請求項に対し限縮的な補正又は説明を行ったが、権利者が特許権侵害訴訟において、
特許権の権利範囲に当該放棄された発明が含まれていると主張する場合、裁判所はその主張を認めな
い。


第8条 裁判所は、侵害被疑物件が特許権の権利範囲に属すか否
かを判断するとき、権利者の主張
する請求項に記載されたいずれの構成要件を無視してはならない。
侵害被疑物件が、請求項に記載されたすべての構成要件と同一又は均等なものを含む場合、裁判所
は侵害被疑物件が特許権の権利範囲に属すと認定するものとする。侵害被疑物件の構成要件を請求
項に記載のすべての構成要件と比較して、請求項に記載の構成要件の一つ以上が欠如するか、又は一
つ以上の構成要件が同一でも均等でもない場合、裁判所は侵害被疑物件が特許権の権利範囲に属さ
ないと認定するものとする。


第9条 裁判所は、意匠特許に係る製品と同一又は近い種別の製品に施された、登録意匠と同一又
は類似の意匠に基づいて、特許法第59条第2項に規定する「意匠特許権の権利範囲」を特定するもの
とする。
製品の種別が同一又は近いものの、侵害被疑意匠と登録意匠とが同一でも類似でもなく、又は侵害
被疑意匠と登録意匠とが同一又は類似であるものの、製品の種別が同一でも近くもない場合、裁判所
は、侵害被疑意匠が意匠特許権の権利範囲に属さないと認定するものとする。


以下省略