私の記憶が正しければ、このときメリー・ポピンズは、銀行にジェーンとマイケルを連れて来ていた。
ジェーンは、
「良い人と良いアイデア、どっちを大事にするの?」
と尋ねる。
バンクス氏は、
「良いアイデアは素晴らしいが、良い人はもっと貴重だ」
と答え、(担保がなくても)ノースブルックの工場への融資にサインする。
彼は「良い人」を選んだわけである。
ここで、「ノースブルック=自国の産業資本家 vs. ハスラー=外国の金融資本家」という対比がなされた上で、バンクス氏が前者に軍配を挙げたことに注目すべきである。
「良い人」、つまり bona fides (ボナ・フィデース:信義誠実の原則)が通用するのは、差し当たりは国内でまっとうな事業を営む産業資本家だというわけである。
これと真逆の発想に立つのが、日本の大部分の銀行や、しばらく前のアメリカの一部の銀行である。
あな恐ろしや!、日本の旧長信銀はそごうやイ・アイ・イ・インターナショナルなどに巨額の金をジャブジャブ融資したし(私が担保だ!)、アメリカの銀行は国際金融資本をターゲットにサブプライム・バブルを惹き起こしたのである。
ついでに言うと、日本の大部分の銀行は、産業資本家の前段階、すなわちベンチャーを育成・支援するノウハウを決定的に欠いている。
前述のとおり、不動産担保など持っているはずがない彼ら/彼女らを入り口で排除してしまうし、そもそも「良い人」を見抜く力を持っていないのである。
さらに言うと、日本の産業資本家(大企業・製造業)は、生産工程の海外移転(オフショアリング)を徹底的に進め、「良い人」たる前提資格を失うに至った。
しかも、これを何と日銀や経産省が後押ししてきたのである。
「日本銀行や経済産業省は、少子高齢化による労働力の減少に対応して、日本の製造業が「稼ぎ方」をバージョン・アップさせてきたのであって、国内で研究・開発に励むのなら、人件費の安い新興国で生産し、全世界に輸出するというビジネスモデルは、むしろ望ましいのだと長く擁護してきた。(中略)
そもそも、海外展開の名の下に実際に行われてきたのは、日本で成功したビジネスモデルを海外市場に持ち込むだけで、新たなイノベーションは途絶えていたように思われる。
さらに、海外で生み出された所得が、国内での新たな研究・開発や人的投資に振り向けられたのなら良いのだが、実際には海外で再投資が繰り返されるだけで、国内の支出増にはさほど振り向けられてこなかった。」(p53~54)
私見では、これも「非正規雇用」と同じく、「ダークサイド・イノベーション」の一つと思われる。
余り言いたくないのだが、そろそろ、
「日本の産業資本家(大企業・製造業)は、政治家や日銀・経産省が想像したよりもずっと悪質だった」
という事実を直視すべきだろう。
こういう状況であれば、どんな政策(サナエノミクス)を打ち出しても失敗に終わることは明らかである。
要するに、「信用崩壊」の責任を、銀行だけに帰するわけにはいかないのである。
さて、バンクス氏は、ハスラーをライバル銀行に奪われた責任を負わされ、銀行から「自宅待機」を命じられる。
普通に考えると、これは懲戒処分としての休職と思われるが、「不適切融資」をしたわけでもないのに懲戒を受けるというのは理不尽である。
意気消沈したバンクス氏に、子どもたちは、かつてバンクス氏から与えられた6ペンスを、「今お父さんにはお金がないから、これをあげる」といってプレゼントする。
バンクス氏は、
「お金の価値は、金額ではなくて、それをどう使うかによって決まるんだよ」
と言って渡したのだった。
まさに至言。
そこに銀行から連絡が入る。
ハスラーは実は詐欺的な人物で、ライバル銀行を破産に追い込んだのだった。
一転してバンクス氏は、頭取から「我が社を破産から救った」、「工場を2つも新設したノースブルックに融資して儲けさせてくれた」と称賛され、従前の4倍の給与を約束される。
バンクス氏は、これを快諾するも、
「ただし、これからは家族優先です」
と付け加えるのを忘れなかった。
・・・あれま、そう言えば、日本では、
「24時間働けますか?」
というテレビCMが頻繁に流れていた時代もあったのだ(台所からキッチンへ(17))。
何だか、あらゆる面で、「信用崩壊」に陥った我が国との違いが目立つので、私はちょっと滅入ってしまったのである。
メリー・ポピンズよ!来たれ、わが国に!