スターダンサーズ・バレエ団公演 「オール・バランシン」

「ワルツ・ファンタジー」

「フォー・テンペラメンツ」

「ウェスタン・シンフォニー」
振付:ジョージ・バランシン / 振付指導:ベン・ヒューズ

 

スターダンサーズ・バレエ団によるバランシン作品のトリプル・ビル。

「ウエスタン・シンフォニー」以外の作品は私は初見で、楽しみにしていた。

開演前に総監督によるプレ・トークがあり、いろいろと面白い話が聴けた。

「フォー・テンペラメンツ」については、ピアノが上手かったバランシンが、来客に弾いて聴かせる曲をパウル・ヒンデミットに依頼したところ、この曲が贈られたという。

バランシンは、バレエだけでなく、ピアノも相当上手かったのである。

だが、この曲を弾けるくらいのピアノの技量を維持するための練習に要する時間と、バレエの技量を維持するために要する時間を足し合わせると、おそらく半日くらいを毎日費やすことになるはずである。

ピアノは、「一日練習を休めば、取り戻すのに三日かかる」というし、バレエについても似たようなことが言われているからである。

そうなると、毎日がとても忙しく、休んでいる暇はない状態だったのではないかと思われる。

かくしてバランシンは、「音楽を観て、ダンスを聴く」境地に到達したのかもしれない。

彼は、しまいには、

 「しょせん義理の妹を理解することはできない

と述べた。

音楽がそうであるように、「ダンスは理解するものではない」という結論に達したのである。

・・・というわけで、この3作品には、いずれもストーリーはない(あえて言えば、「フォー・テンペラメンツ」は幾分かストーリー性がある。)。

3作品とも速くてスリリングな動きが特徴で、音楽のもつ躍動感をダンスが忠実に表現しているという印象である。

面白いのは、私にとっては2回目の鑑賞となる「ウエスタン・シンフォニー」。

音楽や衣装などは西部劇風だが、実は正統派のクラシック・バレエの動きで構成されており、ダンス以外の要素は目くらまし的なものであったことに気付く。

バランシンは、本当に「どんな音楽にも適応できる」タイプの振付家だったようだ。

・・・ところで、久しぶりにこのバレエ団の公演を観て驚いたことがあった。

それは、この2,3年で、他のバレエ団からの、しかも結構な大物の移籍が相次いでいるということである。

例えば、阿部裕恵さんと中川郁さんは牧阿佐見バレヱ団で結構いい役をやっていたという印象があるし、吉田周平さんはK-Ballet のファースト・ソリスト、牧村直紀さんは谷桃子バレエ団のファースト・ソリスト、といった具合である。

さらに言えば、新国立劇場バレエ団に数年在籍して、ここに移籍してきた若手が結構多い。

だいたい、池田武志(今回がこのバレエ団最後の出演)&林田翔平の看板コンビからして、新国立劇場バレエ団からの移籍組なのだった。

だが、こういう「移籍組が多い組織」というものは、私の経験からすると、比較的風通しがよくて、大らかな人たちが多いと思う(逆に、競争社会を生き抜いてきたツワモノたちばかりのギスギスした組織も存在する)。

と同時に、この業界においては、転職市場が正常に機能していることを示していると思われる(転職市場と退職の自由)。

つまり、こういうバレエ団が存在することは、業界にとって良いことであり、そのことは、オペラ業界と比較すると分かる。

オペラ業界は、転職市場が機能不全に陥っていて、ポストが(車田和寿先生いわく)「椅子取りゲーム状態」となっているため、実力以外の要素で仕事が決まってしまうことがよくあるらしい。

昨年大きく報道された大手オペラ団体における「キャスティングを匂わせた誘い」なども、市場が飽和状態に陥っていて、限られた椅子を巡って多くの歌手がしのぎを削るような状況があったからこそ起きた事件なのだろう。