それって、ゆっくりと自殺するようなもんじゃないのか?

久保田直 監督作品
「家路」観ました!
あらすじ!
東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故によって、
先祖代々受け継いできた土地を失ってしまった一家。
長男・総一は田畑を奪われ、稼業である農業が出来なくなり
目標を見失う、
唯一の理解者である妻も、デリヘルで働かざるをえない現実に、
ただ、日々を鬱々と過ごしてした。
狭い仮設住宅で、
娘と母親と顔を突き合わせる毎日は、
未来を想像することすらできなかった・・・
そんな彼らの前に、
20年ほど前に故郷を飛び出したまま
連絡すらしてこなかった次男・次郎が現れる。
警戒区域に指定され、
人が住めない土地となった生家。
その生家に一人住みはじめ、
荒れ放題の田畑に手を入れ
苗を植る。
警察からの連絡により、そのことを知った長男・総一は
その次郎との過去の因縁と再度向き合うこととなる。
そして
次郎の存在、行動は、未来を失った家族たちに
再生という希望を与えることとなる。

田中裕子さんが、
認知のお婆ちゃん役を演るようになったんですね・・・
個性的で、キレイな女優さんですよね~~(∀`从)♡♡♡
認知症の婆ちゃんには見えない程、童顔で若々しい!
日本の女優さんでは、トップクラスに好きです。
最近では、「共喰い」での篠垣仁子役が記憶に焼き付いてますね。
「おしん」によって世界的な知名度ですもんね?
田中さんって・・・
・・・好きだなぁ~(∀`从)♡♡♡

お婆ちゃんと呼ぶにはあまりにキレイだ・・・
さて、
本作は、物語のきっかけとして東日本大震災の存在はあるのですが、
それよりもむしろ、
主人公・次郎と
兄・総一の未来観みたいなものへのコントラストが対照的で、
そのバランス感が絶妙なドラマなんですね。
つまり、
日本にとって、あまりに大きな爪痕を残した震災なんですが、
いままで出会った震災ドラマとはやや異なり、
もう、過ぎた出来事感が強く描かれてるんです。
総一は先祖代々受け継いできた土地を失い、
稼業である農業が出来ず、
そして未来が見えず、鬱々とした日々を過ごしていて、
唯一の理解者である妻も、
夫公認のデリヘルをしているのですね・・・
そんな妻との距離を上手くとることが出来ず
さらに泥沼へと足を突っ込んでいく様子が痛々しいんですね。

母や娘と狭い仮設住宅で、一日中顔つき合わせ、
ついつい、
妻が客とホテルへ行くのを追ってしまったり、
貯金降ろして、
妻をホテルに呼んぢまって、
「女房買う気か!?」って呆れられて・・・
でもさ、
総一の抱える不安って、
そりゃ~もう、想像を絶するものがありますよ!
自分が情けないことでしょう・・・
それを理解した上で、
妻は「それでも、この商売には助けられたんだ」と胸を張ります。
とにかく、
その大きな災害との遭遇は、
それ自体は家族それぞれが、何となく昇華出来てる感じなんですが、
それでも、行き着くところ、
これからどうすっかな~・・・?
みたいのが、この家族含め登場人物全てにあって、
それらが少しずつ、
同じ方向へと向いていく・・・
つまりは、未来を描こうとするドラマでして・・・

中でも強く、明日を見つめていたのが
やはり総一の奥さんで、
劇中、
「負けるもんか!負けるもんか!」と繰り返し言うシーンがあるんですね。
彼女は家族の中でも特別に、あの惨劇はすでに、
過去の出来事として受け止めている感じが強いんですね。
とても強く生きていってるのですが、
それ故に、
なかなか折り合い点を見つけ出せない総一との溝は広がってしまいます。
だけどね、
総一だって、決して振り返ってばかりというワケでもないんですよ。
そりゃ~忘れえぬ出来事ではあったでしょうが、
それを理由に動かないのではないようなんですね。
しかしね、
結果、どれだけ前向きに構えても、
それでも彼らの未来は、あまりに不確実な現実しかなく
それを現段階で、どう受け止めているか?という話なんですね。

誰もいなくなった街を歩く...今更ながらとんでもない出来事だった...
そんな中、
次郎の行動は、現状に動きを与えるわけです。
田んぼや畑、山が恋しくてたまらなくなり、
立ち入り禁止区域での生活が始まります。
それは、
やがて総一の失った誇りや、
認知症で失いかけた母の記憶をも蘇らせることとなります。
村の仲間の中には、
自ら死を選ぶ者も現れる・・・
やはり農民の誇りを失ったからだ。
自分が育てた、放射能まみれの土をトラックに積み、
東京に運んで、
訴えることも、
何も出来ず、東京で命を絶つ・・・
残った者は、その意志を継ごうとする・・・
それが、
現状を打破するための近道だと信じるから・・・。

少し違う視点で描かれる、未曾有の大災害
受け止め方は色々あると思います。
ただ、
私はあの日、
バイト先の横浜で被災しましたが、
停電も、野宿もしませんでした。
店の倉庫で寒い中横になっただけです。
施設内には、
両親が帰って来られず、
一人部屋にいるのが怖くて、
暗いロビーにポツンと座っている中学生の女の子がいました。
傍らには、
まったく面識のない女性が、
心配だからと付き添い、
そんな彼女たちに、
その時私が出来たことって、
暖かいスウプを作ってあげることぐらいでした。
次郎や総一には、
欲が感じられませんでした。
ただそこに、自分の畑があり田んぼがある
だから、命を育てるのだ
そんな単純な行為が、
あの日、
自分がとった行動と重なっただけです。
どうかこの作品に出会ったら、
あの日の自分に会いに行ってほしいものです。
