創作オカシアター         スクリーン1 ~リア充~ | 真夜中のキャプチュード

創作オカシアター         スクリーン1 ~リア充~







毎日通る寂れた商店街の端の端。


ちょうど金物屋のとなり…


駅へ続く道へと折れる角に、古びた映画館を見つけた。


くすんだ壁に蔦が絡まる、石を積んで建てた古い建物。


毎日ここを通っていたのだが、まったく気付かなかった。


突如、目の前に現れたようで驚いた。






入口の脇の壁に、ビニール袋で包まれたポスターが貼ってある。


ビニール袋に直に、

“NOW ON SCREEN”と赤いマジックペンで手書きされている、

         現在上映されている作品のポスターらしかった。




タイトルは「おすそわけ」。


真っ黒な地に白い文字でそう書かれている。


それ以外の文字は一切ない。


白く抜かれた文字が目に染みる。






この作品の、さらなる情報を求めて、入口の脇にある小さな窓口に向かう。


窓口からは、中は暗くて見えない。


「あの~…」私は恐る恐る声をかけてみる。


「“おすそわけ”...どんな内容ですか…?出演者とか…?」


私の言葉には返事が無い。


私は屈んで、窓口を覗きこんでみた。


そこには、60歳くらいのご婦人がチョコンと座っている。


胡乱な目線は斜め下を見つめ動かなかった。


私に気付いた様子もなく、ただ、一点を見つめていた。


質問は返ってきそうにない。


仕方なく、「大人1枚」と告げると、シワクチャの手が動いた。


夕日のような鮮やかなオレンジのチケットを掴んだその手が止まり、


うつろな瞳がこちらを向いた。


「おやおや?」しゃがれたご婦人の声が小さな窓口からもれる…。


「あんたには、何もおすそわけするものは無いよ…。」かすれた声が続く。


「いや…映画観たいのですが…?」そう告げたのだが、


「あんた、幸せそうだね…あんたの持っているものでは鑑賞券は買えないよ…。」


そう言ってご婦人は手を膝の上に戻し、

  また一点に視線を落とし、動かなくなった。







卒業を控え、希望の就職先に内定、


1か月前に彼女も出来て、


 なんと相次ぐヒット商品の連発!

      そんな、業績がうなぎ上りの会社に勤める父から


就職祝いにスポーツカーを買ってもらい、


リア充とは今のこの私のこと!


まさにこの世の春を謳歌する毎日…






どうやらこの映画館の入場券は、お金では買えないようだ…


そう、


その人が抱える“不幸の度合”で支払うのだろう…


鑑賞することで、何をおすそわけされるのだろう…







幸福を自覚する私は仕方なく、駅への道を歩き出した…


少し歩いて振り返ると、真っ黒なポスターから白い文字が消えていた…


不思議に思い、入口のほうを見ると、


陽光まぶしい表通りに反し、


館内はポスターよりも黒く、深く沈んでいた。