この国にも、混沌とした時代があった
公開2日目に鑑賞したのですが、
他と前後してしまいました。
記念すべき、本年度60本目の劇場公開作品鑑賞となったので、遅ればせながら感想文をアップさせていただきます。
評論家・川本三郎氏がジャーナリスト時代の体験を綴った同名ノンフィクションを、
脚本家・向井康介氏が脚色、再構築
「リンダ・リンダ・リンダ」で独特の不思議な感性を披露した山下敦弘監督がメガホンをとった
「マイ・バック・ページ 」 を観てきました。
簡単にストーリーです!
激動の60年代後半、
大阪万博開催を目の前に
高度成長期に浮かれた日本の歪んだ方向性や
ベトナム戦争、
70年安保などの現実を、リアルとして受け止める学生たち
東大安田講堂事件後、学生運動は収束の一途をたどったが、
一部の過激な活動家たちは、まだ自分たちが今の社会を変えると、
革命を信じ戦い続けた。
東都新聞社で週刊誌記者として活動家たちを取材してまわる沢田は、
ある日、先輩の中平とともに、
活動家の学生・梅山と名乗る男から接触を受け、取材にむかう。
彼の話を聞いた、先輩・中平は、
ヤツはニセモノだ、近づくなと釘をさすが、
沢田は梅山と酒を酌み交わしてしまう。
そんな中で、梅山も、自分と同じ宮沢賢治が好きで、
CCRを一緒に口ずさむうち
彼に親近感をおぼえてしまう。
やがて事件は起こる。
梅山とその仲間が武器を調達するため駐屯地に潜入し、
警備に当たっていた自衛隊員を殺害してしまう。
事件後、
梅山は沢田の前に、殺害した隊員の腕章を提示し、
犯行の取材をさせ、取材費を要求する。
しかし、その取材中、
新聞部の記者が取材を横取り、
スクープを新聞部に奪われる。
ところが新聞部は梅山を活動家ではなく、
殺人犯として判断し、警察へとうってしまう。
やがて、沢田も警察からの事情聴取を受けるが、
梅山は思想犯であり、取材で知りえた情報を開示出来ないと協力を拒否する。
しかし、梅山の逮捕により、沢田は思わぬ方向へと身を置くこととなった…
この作品の舞台である時代背景は
じつゎ、ウルトラセブンで見聞きしました。
カレーライス120円
コーヒー100円
味噌ラーメン100円
ハイライト80円
本作でも、セットである食堂の看板に書かれたメニューも
同じ値段がかかれてました+.(*ゝд・)b゚+.゚
これも時代でしょうが
本作では、やたらと喫煙シーンが多く目につきました。
ウルトラセブンでも、
宇宙戦闘機の機内で、隊長がタバコを燻らせるシーンがあったっけなぁ~…
ライターで着火すると、大きく火が出て、酸素がもれてるぞ!って気づくシーンがあった。
つか、
宇宙空間では、もっと酸素大事にしようよ(__)ノ彡☆バンバン!
まぁ、これから侵略者と戦うんだから、気を静めているのかもしれんけど
'`,、('∀`) '`,、
さて、
話はそれましたが、
本作での妻夫木くんは、
悪人の時より断然合ってました!
沢田という男は、
安田講堂陥落の際、
単なる傍観者としてその場にいました
つまり、自分が避けた道を、梅山が身を置く世界であると思った彼は、
梅山に親近感を持つのです。
弱かった自分を、梅山に投影してしまい、のめりこんでいく
彼の行おうとする活動の成功を祈るようになるのは、
自分の出来なかったことを彼を通して実現しようという妄想
冒頭、潜入取材で怪しげな露天商を手伝い、
商品である、うさぎを、彼のキャラである思慮の浅さゆえ、
うっかり死なせてしまうのですが、
うさぎを預かっていた露天商のタモツは、兄貴分から袋叩きにあってしまいます。
しかし、タモツは沢田を責めることもなく、
傷だらけの体でうさぎを埋めようとする・・・
つまりタモツは、“生”とか“命”とかに向き合っているのですが、
沢田はこの一件を金で片付けようとする人間性の甘さや、懐の浅い感じが描かれていて、実に傑作なシーンでした。
絶妙なワンカットでしたよ。
さらに印象的なシーンがあったのですが
梅山と沢田が酒を飲み、かわす会話に
「梅山君は何で運動をやろうと思ったの?」
「安田講堂をテレビで見てこれだ!と思ったからです」
「俺は苦しかったなぁ~、報道側から見ていたのだけれど、
同じ大学の奴らが負けて行くのを安全な所から見てるっていうのは…」
「沢田さんて優しすぎますよ~」
この会話が、この二人の力関係や、思考の温度差などを表していたように感じます。
沢田の週刊誌の表紙を飾るモデル、倉田眞子と映画を観に行くシーン
「ファイブ・イージー・ピーセス」を鑑賞後、
沢田は「つまらない映画だったね」と言うが、
眞子は「そんなことはない。ジャック・ニコルソンが泣くシーンが良かった、私はきちんと泣ける男の人が好き」と言う。
しかし沢田は「泣く男は男じゃない」と言う。
さらに、
梅山が事件をおこす直前、
彼を写真に収めようと彼の元を訪ねた沢田に、
「沢田さん、『真夜中のカーボーイ』は観ましたか?あの中でダスティン・ホフマンが泣くんですよ。僕だって怖いんですよ。」という。
この2つのシーンがじつゎ後々、大変重要な意味をもってくるのです。
当時のアメリカンニューシネマ・・・
どちらも挫折する者を描いた作品だ・・・
もし本作をご覧になれば
その場になると、あ~なるほど~って思うことでしょう。
松山くんも今回、
中身のない空っぽな活動家を見事に演じていました。
劇中の彼は、
かなりぽっちゃりとしていて
あごも二重あご、
なんか理想ばかりで、行動が伴わないグータラ感があってよかった。
映画の冒頭、
梅山自身が発起人の思想サークルで、討論会が行われ、
梅山の薄っぺらな理論が、他のメンバーによって論破されてしまうのですが、
そんな相手を、サークルから追い出してしまうシーン。
このワンシーンで梅山という男が中身のない、空っぽな男であると表現されてて、
やがて、彼は彼自身の嘘の中で、自分に対し酔っていってしまうさまなどを、
上手く演じられていました。
さすがに妻夫木くんにぶつけるだけあるなと関心!
その、感情に抑揚のない時期と、
逮捕後の保身に走る、必死な彼とを上手く演じ分けて、
印象深いシーンは、
犯行後、独占で沢田に取材を受けている際、
沢田が用意したであろう寿司を桶ごと、抱えて食っている梅山。
そのシーンは、犯行を裏付ける血だらけの腕章を見せるシーンでありながら、
梅山の口の中にはずーっと寿司が入っている。
そのシーン中、口を動かしている。
止らない食欲
殺した相手の血がついた遺留品を、寿司をつまんだ手で掴む。
今で言う、ヴァーチャルな世界に身を置く、
壊れている梅山・・・
そして、
その梅山に自分だけの独占取材を願う沢田
狂気の時代、
狂気の男達・・・
中身を伴わない梅山が
さも、信念や、思想を持ち、歩んでいると言わんばかりに、
巧に、言葉だけで渡ってきただけなのに・・・
凄まじいワンカットでした。
脇を固める役者陣も、ひとくせも、ふたくせもある濃い人ばかり!
'`,、('∀`) '`,、
中でも、古館寛治さんは
バカがウラヤマシイで共演済みです!エッヘン!
(↑会ったことも無いクセにね(●´艸`) )
ラスト、
沢田は梅山の逮捕により、自らも、証拠隠滅などの罪で
執行猶予つきの有罪判決を受けてしまう。
しかし、この時点でも沢田は、若い自衛官が一人死んでしまった事実を
あまり現実視していなくて、
それらに、直接ではなくとも関わっているという事実も理解していないようなんですが、
勢いというか、精気を失った沢田は、ある日ふと、
一杯飲み屋に立ち寄ります。
するとその店は、以前、潜入取材の時に、
自らの身代わりにボコボコにされた露天商の男「タモツ」がやっていたのです。
今では怪しい商売からも足を洗い、
女房子供まで抱え、
飲み屋のオヤジになったタモツ・・・
かつて迷惑をかけたことを、おくびにも出さないタモツと
昔話をしているうちに、
タモツに「生きててよかったな」と言われ
その拍子に、沢田は思わず、ボロボロと泣きだしてしまう・・・
後から後から
止め処なく流れる涙・・・
ここでふと思い出される沢田のセリフ・・・
「泣く男は男じゃない!」
沢田は、何が恐かったのか?
きちんと泣いて、自らに何かの答を得たのか?
ここでようやく、愚かだった現実の自分と向き合ってしまい
己を知ってしまったのでしょう・・・
ここでドラマは終演をむかえます・・・
そう・・・
沢田の涙は、
決して時代のせいなんかじゃない!
紆余曲折の中、
皆、必死に生き、成長していく
明日のために流した涙だったのです・・・