「酒に溺れるのはヒトだけではない-生物における酒に対する影響」 | バイオ・コンシェルジェ Weblog

「酒に溺れるのはヒトだけではない-生物における酒に対する影響」

「酒に溺れるのはヒトだけではない-生物における酒に対する影響」

この時期、忘年会などでお酒を飲む機会が増えるかと思います。

お酒は美味しく楽しいものなのですが、適量をわきまえないと普段ならありえない
揉め事や、アルコール中毒で後悔することになります。

アルコール中毒というと、一度に大量に飲むことによって起こる急性のアルコール
中毒を多くの方が(苦い経験と共に)思い浮かべるでしょうが、さらに厄介なのが
慢性的なアルコール中毒(アルコール依存症)です。

このアルコールに対する中毒が、何もヒトだけに限った話ではないことを、
カリフォルニア大学の研究チームが明らかにしました。

本研究結果はカレント・バイオロジー電子版に掲載されています。

アルコールは中枢神経に作用し、抑制系神経に働きを抑えるため興奮状態
(気分が良くなる)を生み出し、また末梢血管を拡張させることで血行が良くなり
短期的に体が温まるなどの効果がありますが、代謝能力を超える量を摂取すると
意識障害や運動障害、最悪の場合は死に至る危険な物質でもあります。

また、上記の作用を継続的に体験することにより、慢性的な依存症になるケースも
知られています。他の薬物依存と同様、アルコール依存もれっきとした病気であり、
個人の努力で治療するのは非常に困難な疾患です。

なぜこのような危険な物質をヒトは好むのか、文化人類学的にも人類遺伝学的
にも非常に奥深いテーマでありますが、文化はさておき他の生物でもアルコール
に依存するケースがカリフォルニア大学の研究チームから報告されました。

研究では、ショウジョウバエに対して、エサとなる糖溶液にエタノールを添加して
飲ませる実験を行い、エタノールの量と摂餌行動との関係を見ました。

ショウジョウバエはもともと自然発酵することがある果実や樹液などを好むため、
エタノールに誘引されると推測されます。

しかし、栄養分を含まないエタノール溶液だけの場合は飲まないことから、
においは好きだが味については本来好まないと考えられています。

ショウジョウバエに継続してエタノール入りのエサを与え続けると、対照区と比べて
エサの摂取量が増え、さらにエタノール濃度を選択できるようにすると濃度の高い
エサを選択して飲むことがわかりました。

さらに、「エタノール好き」になったハエに禁酒をさせた後、改めて通常のエサと
エタノール入りのエサを与えると、エタノール入りのエサを過剰に摂取することも
確認されました。

同様の試験を、苦味を含む物質で行っても、最初は嫌がるが徐々になれ、
最後には過剰に摂取するという同様の結果が得られました。
そしてヒトと同様(?)、異常興奮や運動機能の低下も観察されました。

このことから、ショウジョウバエも本来エネルギーにならないエタノールを好み、
そして依存状態に陥ることが推測されます。モデル生物であるショウジョウバエを
使えばどの遺伝子がアルコール依存に関わるのかを研究できるため、将来的には
アルコール依存の抑制・治療の方針が立てられるかもしれません。

一方で、恒常的にアルコールを摂取しながら、いわゆる「酔っ払い」状態に陥らない
生物も確認されています。

マレーシアに生息するハネオツパイ(羽根尾ツパイ)という哺乳類で、この生き物は
ヤシの1種が出す蜜のみをエサとして生きていますが、この蜜が往々にして醗酵
しており、常に低濃度(0.5~3.8%)のアルコールを含んでいることがわかっています。

ヒトに換算すると危険濃度を遥かに超える度数の蜜酒のみを摂取し、ヒトと同じように
アルコールの分解を行いながら、(表面的には)酩酊状態にならないこの生物も、
アルコールの影響について重要な知見を与えてくれるものと思います。

酒は昔から百薬の長とも言われ、適量であれば体にとってプラスに働くとする研究者
もいます。

今回紹介した生物などを使った研究が進み、アルコールの悪影響を低減できるので
あれば、世界的に消費量が減少しつつあるお酒ももう少し歓迎されるかもしれません。

最も、飲んでも酔っ払わないのであれば、果たしてヒトはお酒を飲み続けるかどうか
は定かではありませんが。

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来年もよろしくお願いいたします。

TOPICSにもありましたが、お酒はほどほどに!
楽しいクリスマスと年末を過ごして新しい年を迎えてください!
                             (鈴木)
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発行・編集 バイオ・コンシェルジェ株式会社
      バイオ・インフォメーション・ニュース編集部

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