兄の家から灰床の良夫さんの家に寄った。
良夫さんは耳が遠いので聞こえない。
案の定下の畑の辺りに人影が見えた。
体が分かるように彼の目の前に体を晒してわざとらしく大きな声を出す。
「おお~い!」
「おお~、びっくりしたがな!イノシシが出て来たチ思うたがな~。」
「ナンチ!イノシシはないだろう。イノシシよりかもずっとマシじゃが~。」
まあ上がって茶でも飲んで行けと言うのだがここで捕まったら後がどうなるか分かったものではない。
しばらく見ない間に彼は紫ダイジョを全部引っこ抜いていた。
私が植えている紫ダイジョは良夫さんの家から持って来たものだ。
「どうしてひっこ抜いた?」
「どうしたもこうしたもないがな!あんなもん人が植えるようなモンと違う。」
うるさいので全部引っこ抜いたという。うるさいと言う気持ちも分からぬではない。
ビニールハウスの中にドラゴンフルーツが見える。彼の奥さんが徳之島だった関係で奥さんの実家から貰って来たものだ。寒さがきつかったので木の高さを一段低くしたという事だった。
横の方にトマトが鈴なりだった。
良夫さんの家ではムベがまるでちぎってくれとと言わんばかりに生っていた。
すると珍しい紫色のアケビが見えた。
このタイプのアケビは見たことがない。
どうしたのかと訊いたらスーパーで売っていた紫色のアケビを買って来て種を播いたのだと言う。
「ドヤ!見たコツがなかろうが!」
まったくこの爺さん威張る時は鼻が天を向く。鼻の穴がスッポンポンになって鼻毛が丸見えだ。
「良夫さんこんアケビの品種何ちゅうか知っとるか?」
「知らんがな!山形屋ショッピングプラザのウンべじゃ。」
「アンタ、これだけはちぎるなよ~。」
「フン、ちぎらんがな。」
これは多分紫水晶という品種のはずだ。
思えば私も同じようにショッピングプラザの種を播いて今その実が生っている。
まったくこの爺さんも私と同じようなことをしていた。



