同じ「植毛」という言葉で、二つの違う状況が説明されています。ひとつは、ある領域の毛がなくなっていて、いま何もないところに密度をつくる作業。もうひとつは、領域全体に毛は残っているが密度が下がっていて、覆うものが減った結果として分け目が広がっている状態です。言葉は共通ですが、実務上の考慮はほとんどすべて異なります。
違いは、医師が何を避けながら作業するかから始まります。空いた領域に置く場合、密度と方向を開いた面の上に設計します。薄くなった領域に置く場合は、すでに生えている毛幹の間に、その毛幹と矛盾しない角度で差し込んでいくことになります。しかも、その毛を生やしている毛包を乱さずに。既存毛は補う対象であると同時に、補う作業の障害物でもあります。
成功の定義も変わります。残存毛のない領域では、結果とは移植した毛そのものです。薄くなった領域では、結果とは移植毛と既存毛が合わさって一つの連続した密度に見えることであり、そのためには配置が、すでにそこにあるものと方向・分布の両面で噛み合っている必要があります。ここで一つ申し添えると、どこまで足せるかは分け目の幅や現在の密度といった実測値が決めるもので、一般論では答えが出せません。
見え方についても、あらかじめ知っておいた方がよいことがあります。薄くなった領域に密度を足すと、変化は緩やかに見えます。空いた背景に現れるのではなく、すでにあるものの上に重なるからです。空いた領域を埋める写真で見慣れた変化を期待していると、順調に進んでいても変化が分かりにくく感じられることがあります。
ひと目で比較
| 空いた領域 | びまん性に薄くなった領域 | |
|---|---|---|
| 作業面 | 開いている | 既存の毛幹が占めている |
| 技術的な主眼 | 密度と方向の設計 | 既存毛包の間への配置 |
| 結果の定義 | 移植した毛 | 移植毛と既存毛が一つの密度に見えること |
| 管理すべきリスク | 密度不足 | 既存毛包を乱すこと |
よくある質問
Q. 薄くなった部分にまだ毛が残っていても手術できますか。
A. 可能な場合が多く、女性のパターン薄毛ではよくある状況です。既存の毛幹の間にどれだけ足せるか、その限界がどこにあるかは診察で判断されます。
Q. 手術で今ある毛が傷みませんか。
A. いま生えている毛包を守ることは技術的な作業の一部です。現在の見た目の多くをその毛が担っているためです。具体的な方法は密度と分布の実測から決まります。
Q. 写真で見た変化ほど劇的に感じられないのはなぜですか。
A. 毛が残っている領域に足した密度は、空いた背景に現れるのではなく既存のものに重なるため、順調な場合でも変化が緩やかに見えます。
