「ミッドナイト・バス」/伊吹有喜(文藝春秋)

東京での過酷な仕事を辞め、故郷の新潟で新潟⇔東京間を往復する長距離
夜行深夜バスの運転手をしている利一。 ある夜、利一彼が運転するバスに
乗ってきたのは、16年前に別れた妻の美雪だった。 利一と同じく、東京での
仕事を辞めて実家に戻ってきた長男の怜司。 実現しそうな夢と、結婚の間で
揺れる長女の彩菜。 また美雪は再婚した夫の浮気に悩んでいた。
そして利一と志穂の将来は・・・。
これは少し前に読んだ「砂の上のファンファーレ」同様、離婚を機に、
バラバラになってしまった家族の再生物語である。
そして、家族の一人一人が苦悩し、考え、力を合わせてもう一度
前に進むための家族の再出発の物語だ。
深夜バスには乗ったことがないので、バス内の乗客の様子は理解できないが、
故郷への、或いは旅行で、共にバスの中で同じ時間を共有する。
行ったり来たりのその往復は、まるで人生を象徴しているかのように感じる。
試行錯誤を繰り返しながら、何度となく後悔を繰り返し、
人は少しずつ大人になっていく。 ボタンを掛け違えた家族、恋人たちも
月日の経過の中で、何かをきっかけとして、互いの立場を理解しつつ、
前向きに歩き始める時期がある。 それは、やはり家族という同じ血の
通った者同士の、他人にはわからない絆が再生するのかもしれない。
激しい起伏のあるストーリーはないものの、何度も新潟⇔東京間を往復する
深夜バスにそれぞれの想いを乗せて、それぞれが、自らの人生の顧み、
再び歩き出す道標になっているのかもしれない。
深夜に走るのだから、当然風景は眺められないが、点々と遠くで光る街の灯に
様々な思いを馳せるのは、飛行機だって列車だって同じかもしれない。
きっと、眠りから醒め、夜明けの空を眺めるときには、
誰しも1日の始まりに一喜一憂する瞬間かもしれない。
そして、それが家族再生の明日なのかもしれない。