どうやら、今回の舞台は海沿いのホテルのようだ。
何の目的でホテルにいるのかはわからないが、今わかるのは、一人で滞在しているということだけ。
自室で、ボーっとしていると、ロビーの方から声がきこえる。
『も・は・・ませんか?』
耳をすましてはみたが、聞きとることはできなかった。
翌日、外の五月蝿さで、目が覚める。
どうやらこのホテルで事件が起きたらしい。
話を聞くと、宿泊客と従業員数名が、無残な殺され方をしており、犯人は正気の沙汰ではないらしい。
その後すぐに自宅へ帰った。
すっかり事件のことを忘れ、平凡な生活を送っていると、ふとテレビから流れるニュースに耳が立つ。
『ニュースの時間です。
また、新たにホテル関係者と思われる死体が発見されました。
身元の確認を急いでおります。
必ず現場には、桃が置かれており、犯人のメッセージなのではと憶測が飛び交っています。
これで、ホテルに関わった方の死亡者数は15名になりました。
先日のホテル殺人事件の犯人は未だ逃亡中です。
事件との関連性を含め、調査しているもようです。
皆さんくれぐれもご注意ください。』
あいつだ。
このまま家にいると殺される。
とりあえず、家から出よう。
車を借りて、そこで寝泊まりしよう。
移動してれば、見つかることはないはず。
車を借りてからは、人通りの多い駐車場やパーキングエリアでの寝泊りが続いた。
外は寒い。
季節はすっかり冬のようだ。
いつものように、駐車場に車を停め、暖房をきり、眠りにつこうとした。
ラジオの音だけが、安心感を与えてくれる。
足音がきこえる。
ガラスが結露しており、外の様子を伺うことができない。
微かに人影がこちらへ向かってくるのがわかった。
一直線にそいつは、助手席に向かってくる。
どうしよう。
もう判断もできないほど、思考は停止していた。
『ガチャガチャ、ドンドンドンドン』

ドアをこじ開けようとする音が、車内に響き渡る。
恐る恐る、助手席側の窓の結露を手で拭う。
顔が見えた。
ん?
テレビで見たことある顔だ。
名前を知らないが、顔は知っている程度の有名人が助手席側に立っていた。
有名人ということですっかり安心し、すぐにカギを開け、彼を招き入れる。
俺『外寒いですよね。どうぞ中へ入ってください。』
彼『最近、事件怖いですよね。』
俺『あ、ホテルのですか?実は、そのせいでこういう生活を送ってて。』
彼『私もなんですよ。毎日怯えてます。』
嘘だ。
彼は、ホテルにはいなかった。
ただ、この時は、仲間が欲しい気持ちが強く、そのことを咎めたりはしなかった。
彼と、色んな話をした。
今まで独りで戦ってきたということもあり、話し相手が欲しかった。
世間話から、事件のことまで、よくぞまぁ、こんな短時間で喋れたものだ。
夜も更け、眠りにつこうとした時、彼はダッシュボードからガムテープを取り出した。
ガムテープを適当な長さに2枚きり、それぞれのベタベタしている方同士をくっつけている。
そのガムテープに、油性マジックで文字を書き始めた。
ガムテープをハガキと見立てると、郵便番号のところに『赤・青・黄色』という文字。
宛先のところには、『中村・・・』と書かれていた。

それを、フロントガラスへ貼った。
お守りみたいなもんだろうと勝手に解釈し、眠りについた。
うとうとしていると、ラジオからニュースがきこえてきた。
『ニュースの時間です。
未明、変死体が発見されました。
被害者の口には、粘着テープのようなもので固定された痕があり、死因の確認を急いでおります。
被害者の所持品からホテル関係者ではないかということです。
これで、似たような殺人事件は5件になりました。
どの現場からも、奇怪な文字の書かれた封筒が見つかっています。
犯人は現在も逃亡中で行方を追っております。
くれぐれも、不審者には近寄らず、戸締りを行なってください。』
こいつに殺される。
もう、車から降りて逃げるしかない。
寝ている素振りをしながら、必死に頭で考える。
【まだ彼は寝ている。
ニュースには気づいていない。
逃げるなら今しかない。】
音を立てないようにゆっくりと運転席のカギを開け、外に出ようとした瞬間
『どうしたの?』
彼が起きた。
頭の中はもう絶望と恐怖しかない。
とっさに嘘をついた。
俺『トイレ行ってきます。』
彼『外寒いよ、気をつけて』
彼は笑ってた。
ガチャ
扉を開け、外に出る。
もう俺の勝ちだ。
街の光を目指し、全速力で走った。
思うように走れず、もどかしくなりながらも必死に走った。
もうここまでは追ってくるまい。
勝利を確信し、車の方を振り向いた。
その瞬間、恐怖で動悸がする。
鎖で車輪をつながれ身動きできない車の姿がそこにはあった。
あの時、何も知らずにいたら、車で逃げることもできず、危なかったんだ。
そう思うと、今の逃げ切れたことが幸せにさえ感じた。
この場を後にしようと、街の方へ方向を変えた瞬間
ぶーんと、エンジン音がきこえる。
おれの車の後ろにぴったりとくっついているもう一台の車があったのだ。
よく街で見かける野菜売りの車だ。
その時、はっとした。
運転席にいるのは、ホテルにいた桃売おじさん。
今まで安心してしゃべっていた彼は桃売おじさんの仲間だったのか?
もう何も信じることはできない。
桃売おじさんは、無表情のまま、こちらへ向かってくる。
手には、果物ナイフ。
死んでいった人みたいに無残な殺され方はごめんだ
殺されるくらいならやってやる。
今まで以上に動悸がする。
逃げることはやめて、桃売おじさんへ立ち向かう。
ここで、今さっき目が覚めた。
面白い夢だったので、記録に残すことにする。
映画化決定!!

