七十四歳にして、ゼロ~十歳の三人の里子を自宅で預かり育てている男性がいる。一九九二年バルセロナ五輪水泳金メダリスト・岩崎恭子さんの父親、勝稔(かつとし)さん=静岡県沼津市=だ。虐待や経済的理由などで実親と暮らせない子どもが増える中で、里親のなり手が増えてほしいと願い、昨年、体験記も出版した。 (細川暁子)

 「じいじ、おんぶ」。自宅の庭で勝稔さんに甘えるヒトミちゃん(3つ)。その周りを、小学四年生のアキラ君(10)が元気に走り回る。一見「おじいちゃん」と「孫」のようだが、二人とも勝稔さんと妻の真知子さん(68)が育てている里子だ。もう一人の里子、九カ月のアヤカちゃんはハイハイが上手。「子どもの成長が生きがいです」。勝稔さんの目が優しい。

 「今まで生きてきた中で、一番幸せです」の名ぜりふで有名な金メダリストの次女・恭子さんを含め、夫婦には娘が三人おり、長女は同居している。四十代で白血病になり、抗がん剤治療を三年続けた勝稔さん。子育てが一段落したころ、闘病生活を多くの人に支えてもらった経験から、社会に恩返ししたいと里親になることを決めた。

 二〇〇四年に県の児童相談所に里親登録。最初は児童養護施設で暮らす子どもや、児相が緊急保護した子どもを数日~二週間程度預かる活動から始めた。体にあざがあり虐待が疑われる子や、別々の施設に引き取られる兄妹がいた。「家庭に恵まれない子どもたちに、普通の生活を送らせてあげたいと思った」と勝稔さんは言う。

 〇六年に児相から依頼され、生まれたばかりのアキラ君を預かって本格的な里親生活が始まった。一三年にはヒトミちゃん、昨年にはアヤカちゃんが、いずれも生まれて一週間程度で家にやってきた。子どもたちを育てるのは、実親が引き取る準備ができるまでの約束だ。

 アキラ君とヒトミちゃんは、勝稔さんのことを「じいじ」と呼んでいる。「『里親をしているなんてすごい』とよく言われるけど、自分は普通のじいさん」と勝稔さんは笑う。一番うれしかったのは、ヒトミちゃんが「大きくなったら、じいじと結婚する」と言ってくれたこと。お正月は娘や孫たちも勢ぞろいし、にぎやかに過ごした。近所の人も子どもたちの声がしないと心配してくれるほど自然に受け入れてくれている。

 昨年、体験記「74歳、今まで生きてきた中で一番幸せです!」(三五館)を出版。里親のなり手が増えてほしいとの願いを本に込めた。勝稔さんは「虐待が増える中で、里親制度を浸透させて、社会全体で子どもを育てていくことが大切です」と話す。

◆被虐待児ら委託率は16.5%

 厚生労働省によると、全国の児童相談所が2015年度に対応した児童虐待件数は初めて10万件を突破し、1990年度から25年連続で増えている。2014年度に虐待などで乳児院や児童養護施設、里親等に養護された子どもは3万5820人。このうち、里親など家庭に委託されたのは5903人で16.5%にすぎない。

 昨年改正された児童福祉法では、親が養育できない場合は施設ではなく里親などへの委託を優先することを明記。政府は19年度に里親委託率を22%とする目標を掲げている。ただ12年度末の里親委託率は1位の新潟県が44.3%、静岡県が23.2%、石川県20%、愛知県13.6%、東京都は12.1%と自治体によって大きな差がある。