心理学者のジークムント・フロイトは、心理療法の目的を「無意識の意識化」としている。つまり、 心情を吐露したり、悩みや問題を打ち明けることで、無意識に抑圧された感情を意識化し、心の病が治ると考えた。

 この考えは現代でも多くの心理療法において採用されている。信頼でき自分を理解してくれる家族や友人に本音を語る人もいるだろうし、専門のカウンセラーでないと自分について話せないという人もいる。

 悩みや本音を打ち明ける相手は人間に限られているわけではない。特に犬に心を打ち明けることで、ストレスなどの心の病が改善されるという研究結果がいくつか報告されている。感情的なストレスがたまっている人は、人間より犬のほうが感情を打ち明けやすいのだそうだ。


ペットと子供たちの関係性についての研究結果 

 ケンブリッジ大学で博士号を取得中のマシュー・カッセルは、家族調査センターのクレア・ヒュー教授のもとで約10年の長期に渡り、子供の社会的・感情的発達に関するデータの分析を行っている。12歳の子供がいる家族のデータを分析した結果、親しい人との死別や、離婚、不安定な感情の起伏、病気など、人生で大きなストレスを受けた子供たちは、友達などよりペットの犬や他の動物などとの絆の方が強いことが分かったそうだ。

 絆が強いということは、犬と感情を共有することも含まれいてる。これらの子供と犬の関係は肯定的なものが多く、犬がセラピーの役割も果たしているケースが多く見られた。


 更にペットとの絆が強い子供は、社会的に望ましい行動を取る能力(助けあいや譲り合い、協力することなど)も他の子供と比べて高かった。また、これらの子供たち(特に女の子)は兄弟姉妹よりもペットに本音を語ることが多いという。

 カッセルは、「子供たちが、逆境に直面した時に、ペットを心の支えとするだけでなく、兄弟姉妹のような存在に置き換えることにはとても驚きました。しかも子供たちはペットが実際に人間の言葉が分からないことも認識しています。」と述べている。


成人と犬との関係

 もうひとつの研究は、イギリスのリンカーン大学で学ぶアイスリン・エヴァンス・ワイルデイの修士論文だ。研究では、人間が本音を語ったり悩みを打ち明ける相手は、ペットの犬なのか自分のパートナーなのかということを調べている。

 その結果、特定の感情の場合には、犬のほうが話しやすいという傾向が見られた。研究データは306人の異性愛者(うち232人が女性、74人が男性)を対象として、オンライン調査をもとにしたものだ。


 調査では、8つの異なる感情を対象にして、ペットの犬と人間のパートナーとどちらが相談しやすいかを調べている。

 調査に参加した被験者の中でも、女性のほうがペットに自分の感情について語ることのほうが多かったようだ。しかし、感情によっては人間のパートナーに打ち明けたいという答えも多かった。

 落ち込んだり、嫉妬、無気力などはペットに、怒りや恐怖などは男性のパートナーに話す女性が多くいた。一方、男性は女性に比べるとあまり感情を打ち明けない傾向が見られた。そして女性のように、パートナーに話す感情とペットに話す感情を区別することもなかった。


大人も子供もネガティブな感情を犬に打ち明ける傾向。

 両方の研究で判明したのは、大人でも子供でも否定的な感情を抱いているときは、犬に話すことで安らぎを得ようとする、ということだろう。そして、この傾向は男性よりも女性のほうに強く見られる。

 もしフロイトが正しければ、自分の感情を口に出すだけでメンタルヘルスは改善されるということだ。つまり、犬に本音を語るということは、困難から精神的に立ち直る最初のチャンスとなる可能性もあるのだ。