中国企業による世界的な買収案件が成就しないまま終わるケースが増えている。


 その先頭を行くのは謎めいた安邦保険集団だ。安邦保険は今週、米中堅生保フィデリティ・アンド・ギャランティー・ライフの買収案の撤回に一歩近づいた。この買収案が白紙に戻れば、米国とカナダのホテルに続いて連続3回目の撤退となる。その数日前にも、中国の建設機械メーカーが米クレーンメーカーのテレックスに対する買収案を撤回したばかりだ。


 米調査会社ディールロジックによると、中国企業による外国企業の買収案件(公表済みのもの)は今年、上半期がまだ終わらないというのに、2015年につけた過去最多の件数を上回った。中国は初めて、外国企業の買収案件数で世界トップとなった。だが、ディールロジックによると、中国企業による買収案で成就せずに終わった件数もかつてないほど増えている。


 中国企業による外国企業の買収ブームが、法人や個人の資金が海外へ流出している時期と重なっていることは偶然ではない。予想される人民元の下落を回避するためや、単純に中国政府の目の届かないところへ資産を移転させるために、中国から海外への資金流出が起きている。政府がこうした資金の流出を阻止する動きに出るなか、買収案の撤回が相次いでいる。


 だがそれは、こうした買収案件とその不首尾を取り囲む数々の奇妙な動きの一部にすぎない。もう一つは買収案件に関係する企業や、何が許されて何が許されないのかを決定する権限を有する政府もしくは規制当局の不透明な実態だ。


 窮地に追いやられている最新の案件は安邦保険がフィデリティ・アンド・ギャランティー・ライフに15億7000万ドル(約1700億円)で提示した買収案だ。米国の規制当局は安邦保険に財務状況の詳細を求めたが、まだ入手していない。フィデリティは安邦保険が買収案の承認を再び試みるだろうとみている。


 安邦保険が要求された情報を提出しないことは驚きではない。安邦保険の組織構造や、資金の出所を探る試みは今のところほとんど成果が出ていない。安邦保険による買収案がトラブルに見舞われたのはこれで3度目だ。最初はスターウッド・ホテルズ・アンド・リゾーツ・ワールドワイドの買収案だった。提示額を引き上げてライバルを脅かした挙げ句に突然、ほとんど説明もなく安邦保険は買収案を取り下げた。


 次の買収案撤回はカナダのホテルグループだった。数週間におよぶ交渉の末、安邦保険はインベスト・リアル・エステート・インベストメント・トラストに、もう関心はないと告げた。ただ、安邦保険はその際、買い手となりそうな別の交渉相手を紹介した。その相手は安邦保険よりもさらに不透明な組織を持っていた。その交渉は5月10日にまとまった。


 ただ、その一方で、成功している買収案も多い。2015年初め以降に公表された規模の大きな上位50位までの買収案のうち、中国企業が正式に撤退したのは5件だけで、19件は未決だ。世界全体でみても、今年は買収案を撤回する企業が過去最多のペースで増えている。なかでも上位3位を占めているのが米国の企業だ。だが、これらのケースはいずれも規制当局による反対、もしくは税法の変更が原因であり、買い手による一方的な決定が原因ではない。


 中国政府は国内企業や金融システムが世界的に、その巨大な経済と同様の影響力を振るうことを望んでおり、中国企業によるこうした失敗は政府にとってはばつが悪い。それはまた、その実現を阻んでいる中国の矛盾を如実に物語っている。