日銀や欧州中央銀行(ECB)のマイナス金利政策が、金相場に“異変”をもたらしている。国債利回りの低空飛行が続き、投資家の頭の中に「リスクの軽減効果は国債よりも金の方が高い」(金の国際的な調査期間、ワールドゴールドカウンシル=WGC)という計算が働いて、金利を生まないはずの金が買われやすくなっているためだ。以前から「有事の金」といわれるが、投資マネーの受け皿として、金の輝きは一段と増している。
米ニューヨーク市場で取引されている金の国際価格はこのところ、1トロイオンス=1200ドル台半ばで推移。今年に入って2割も上昇した。
WGCが5月中旬にまとめたリポートによると、今年1~3月の金需要は1290トンで、前年同期から21%拡大した。四半期の需要としては過去2番目の規模という。中国が今年の経済成長率を6.5~7%に実質引き下げるなど、新興国経済の成長にブレーキがかかっていることに加え、米国の追加利上げの行方、テロ不安の拡大など、世界経済の先行きに対する不透明感が強まり、金の安全資産としての魅力が高まった。
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このうち世界全体の投資需要は618トンと、前年同期の約2.2倍に増えた。中でも、現物の金を証券化した上場投資信託(ETF)は364トンの純増となり、投資需要を大きく押し上げた。四半期ベースでは、リーマン・ショック直後の2009年1~3月期以来の水準という。また、個人が投資目的で購入する地金やコインの需要は1%増の254トンだった。
この期間中、ECBやスイス国立銀行、スウェーデン国立銀行などに続き、日銀が2月中旬にマイナス金利政策の導入に踏み切り、投資環境は激変した。WGCの市場分析の責任者であるアリスター・ヒューイット氏は「マイナス金利政策により生じた不確かさを要因として、投資分野が金需要の最大の担い手となった」と指摘する。
マイナス金利政策と金の投資需要の関係について、WGCは(1)金利低下に伴う金保有コストの低下(2)年金基金や外貨準備の運用管理者が投資先として選べる資産の減少(3)通貨戦争や為替介入の恐れによる不換紙幣に対する信用の低下(4)金融政策の出尽くし感による先行き不透明感や市場の動揺-といった要素に注目する。
特に、厳しいリスク管理姿勢が求められる年金基金や外貨準備の運用責任者を中心に、マイナス金利の導入以降は運用資産の構成の大幅な見直しを迫られている。というのは、債券は通常、株式など他のリスク性資産の目減りリスクを回避する目的で買われるが、マイナス金利の金融環境ではこうした効果が限られてしまうからだ。
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ここで債券の代わりにバランスを取る役目を果たすのが、「金利を生まないことが最大のデメリット」(経済アナリストの豊島逸夫氏)といわれる金だ。
1~3月の各国中央銀行による金需要はやや鈍化したものの、WGCでは「2016年以降の中央銀行の金購入量は記録的水準に達する」と予想する。
有事のときに買われるケースが多い金だが、要因はマイナス金利政策だけではない。根強い中国の人民元切り下げ観測も、金への資金流入を加速させているとの指摘も少なくない。
また、大物投資家も金に関連した投資を積極的に行っていることが、話題となっている。米ブルームバーグの報道によると、著名な投資家、ジョージ・ソロス氏の投資ファンドは1~3月期に米国株への投資額を年末時点から37%減らした一方、カナダにある世界最大の産金会社の株式を大量取得した。
世界経済が視界不良となる中、日欧の異例のマイナス金利政策は当面、続く可能性がある。金への投資マネーの流入はしばらく収まりそうもない。
