私たちは、地球上に生息するどの動物よりも器用な手を持っている。
人間に近い類人猿と比べても、親指が他の指と比べて相対的に長く、
手のひらも短いため、指先どうしをくっつけることでモノをしっかりと掴める。

この便利な手と知性によって道具を扱えるようになり、
文明の創造や科学技術の発展が成し遂げられた。
つまり、私たちの手とは、道具を器用に扱えるように進化してきたもの
―というのが、これまでの常識だった。

しかし最新の研究によって、人間の手の進化には、
知られざるもうひとつの背景があったことが判明したようだ。
道具のほかに、一体何が私たちの手を現在の形に変えたのか?
早速、詳細についてお伝えしよう。


■ 死者の腕を使ったヤバすぎる実験で……!!



今月21日、オンライン学術誌『Journal of Experimental Biology』上で
“手の進化”に関する画期的研究成果を発表したのは、米・ユタ大学で
生物学の教壇に立つデビッド・キャリア教授率いるグループだ。

今回の研究でキャリア教授が検証を試みたこと
それは「私たちの手が、道具を器用に扱うためだけではなく、
より強力なパンチを繰り出すために進化してきた」という
生物学者たちの間でも意見が割れる仮説だった。

そこでキャリア教授が構想したのは、常人には思いつかないほど
ホラーな実験だ。
なんと教授は、死んだ男性9人から腕を入手し、
それぞれを(親指が人差し指と中指に重なる)固く握った拳、
(親指が外側を向いた)緩く握った拳、そして平手の状態にしてから、
衝撃力を測定することができる特製装置に打ちつけたのだ。

ラボでは、死者の腕を振り子のように用いてパンチやビンタを
数百回繰り出す実験が、日夜続けられたという。


そして得られたデータは、意外なほど明確な結論を導き出した。
固く握った拳は、緩く握った拳よりも55%強力なパンチを繰り出し、
かつビンタ(平手)の2倍の威力を発揮することが判明したのだ。
しかも固く握られた拳は、手の骨が砕けたり傷つく確率も低かった。

■ 拳を固く握れるようになった理由とは?

さて、前述の実験結果が示す真実について研究チームは次のように解説する。

「固く握った拳が打撃の威力を高め、
かつ打撃中の負担レベルも軽減させます。
これはまさに、私たちの手の進化が、ただ道具を使うためではなく、
他者と闘うためのものでもあったことを示しているのです」