あくびの伝染は、非常に原始的なコミュニケーションの形態であり、人間以外の霊長類やその他の哺乳類にも見ることができる。

 ただしあくびの有無だけでサイコパスの診断はできない。診断はずっと複雑なものであるし、つられてあくびをするかどうかは年齢(年齢を重ねるとそうした頻度は低くなる)やその人物が知り合いであるか(知り合いがあくびした方がつられやすい)など、様々な要因によって左右される。

 それでも、サイコパス特性のスコアが低い人は、誰かにつられてあくびをしてしまう可能性が高いことを実験結果が示している。

 ランドル氏らの実験では、135名の大学生に標準的なサイコパス特性診断テストを受けてもらった。テストは、冷酷性、自己中心性、衝動性、攻撃性、共感性を評価できるように設問されている。

 平均的な学生は50%の範囲に落ち着くが、中には極端に低い学生やスコアが90%まで上がる学生もいた。サイコパスというと、地下室に屍体を埋める連続殺人鬼のような人間が想像されがちだ。しかし、ランドル氏によれば、サイコパス特性が高い人は他人との交わりが苦手かもしれないが、かならずしも悪意を持った人間ではないのだそうだ。

 実験の被験者には次に、暗い部屋に置かれたコンピューターの前にノイズキャンセリング・ヘッドホンを装着して座り、あくび、笑い、中立の3種類の表情が映る映像を10秒間観てもらった。また、研究者が反応を観察できるように、被験者には、まぶたの下、目尻、額、人差し指、中指に電極が取り付けられた。

 その結果、診断テストでスコアが低かった被験者は、高い被験者に比べて、2倍近くの割合であくびをしていた。ただし、スコアが低くてもあくびをしない被験者も存在しており、より多くの被験者を対象とした実験が望まれている。


 米ジョージア・グウィネット大学の心理学者スティーブン・プラテック氏によれば、あくびをする理由についてはっきりとしたことは分かっていないが、あくびを処理する脳の領域は判明しているという。

 「面白いことに、あくびに関連する後帯状皮質と楔前部はある種本能的な共感の処理にも関与しています」とプラテック氏。
 
 「かつてあくびは血液の酸素不足に対応するものと考えられていましたが、これは反証されています。現在の説は、脳を冷却するメカニズムというものです。あくびは退屈のサインであるどころか、脳のフル活動を意味しています」

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 プラテック氏は、サイコパス傾向とあくび伝染への耐性の関係があっても特に驚かないという。先行研究で、他人のあくびを見たときにつられてあくびをするかどうかは、共感が関与していることが示唆されてきたからだ。

 「同僚には冗談で、『恋人が欲しいならあくびしてつられるかどうか確認してみろ』と言っています。これは共感と関連があるため、その人の思いやりや優しさが垣間見えるんですよ」