日本統治時代から続いた唯一の韓国資本による百貨店に「和信」があった。1970年代に初めて韓国を訪れた際、買いたい物があって「和信」で女子店員に品物をたずねたところ「オプソヨ(ありません)」という。「どこで売ってますか」と聞くと「モルラヨ(知りません)」といいそっぽを向いてしまった。 この無愛想きわまりない「オプソヨ」と「モルラヨ」のふた言は衝撃的だった。「これが韓国か…」と実にエキゾチックだったため筆者の“韓国原体験事典”に記録されている。

韓国の百貨店で女子店員たちが笑顔で「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」といって頭を下げるようになったのは79年にオープンしたロッテ百貨店からである。 在日韓国人資本のロッテ百貨店は「お客さまは神様です」という“日本商法”を韓国に導入した。百貨店に食堂街やイベント会場、遊び場、噴水などを設け、モノを買わなくても楽しい百貨店として客に“憩いの場”を提供したのもロッテが初めてだった。この日本式百貨店文化はその後、すべての百貨店に広がった。

ロッテ・グループの創業者の重光武雄氏(92)は日本でまずチューインガムで成功する。「お口の恋人ロッテ」はCM史の傑作として記憶に残るが、70年代以降、母国・韓国に投資。韓国では「ロッテ製菓」からロッテ百貨店を含め、金融など日本を上回る企業グループに成長した。母国進出は当時、経済発展に余念がなかった朴正煕大統領をはじめ韓国政府のたっての要請からである。そのため土地の提供や減・免税など優遇措置が与えられもした。韓国の経済発展に大いに寄与し韓国5位の大財閥になった。

そのロッテが後継者問題でもめている。韓国ロッテを率いる次男の昭夫氏(60)が後継者と目されていたが、最近、日本ロッテが基盤の長男、宏之氏(61)が反発し、一族を巻き込んだお家騒動になっている。サムスン、現代をはじめ家族支配の韓国の財閥ではよくあることで、そのつど不透明な経営・所有形態や相続問題などが批判の対象になってきた。ロッテも不透明な資本所有など家族支配が非難されている。ところが韓国マスコミの激しいロッテたたきには、他の財閥批判と違ってロッテの背景にある在日韓国人つまり「日本」という要素に対するイジメに似た異様な雰囲気がうかがわれる。

創業者の夫人は日本人だから後継者の母は日本人となり、長男は日本語しかしゃべらず、次男の妻は日本人。業績は韓国側が圧倒的だが資本所有では日本側に比重がある…。そこでマスコミは長男には「なぜ韓国語ができないのか?」と非難し、次男には「ロッテは日本企業か韓国企業か?」などと詰問する。国際化をかけ声に世界に羽ばたく世界十何位かの経済強国などと自慢しながら、「日本」がからむととたんに国際感覚などどこへやら。“田舎民族主義”丸出しになる。 韓国で企業経営をしている在日韓国人が電話してきて「困ったときに世話になりながらあの異様なロッテ非難は恩知らずもいいところ。在日同胞の母国への経済的貢献ということでは、韓国より北朝鮮の方が礼を尽くしてくれているのではないか」と皮肉っていた。