人間の眼は見事なまでに洗練された複雑かつ特殊な器官で、かのダーウィン自身でさえ不条理なまでの進化と評した、ほとんど信じがたい存在だ。

 だからといってそれが完璧であるわけではない。焦点が正しく合わないことはあるし、年をとるにつれて視力も低下する。また、感染症にかかったり、炎症を起こした場合、あるいは強い光に照らされたときの苦痛は凄まじい。

 そうした欠陥を克服するため、イタリアのバイオテクノロジー新興企業MHOX社が、人間の眼を合成したものに取り換える(換装)という野心的なプロジェクトを立ち上げた。この人工眼球により目の見えない人に光を、視力の低い人には最大1.5まで視力を向上させるほか、更には、眼球にカメラ機能を持たせ、wifi回線を通じて視界をすべて記録できるという。

 「バイオプリンティングとバイオハッキングにおける最新の進展が、近い将来における有機的かつ機能的な人体パーツを簡単に印刷できる可能性について想像させてくれました」と話すのは、主任設計者のフィリッポ・ナセッティ氏だ。

 Enhance Your Eye(あなたの眼を強化せよ)の頭文字をとってEYEと名付けられた本コンセプトは、特殊な針を備えた3Dプリンターを用いて、多様な細胞を適切な配置と構造に滴下することで作成される。バイオプリンターは、すでに耳、血管、腎臓などの器官を作成することができるが、眼はその複雑さから難関とされている。

 ナセッティ氏の構想では、利用者は”ヒール”、”エンハンス”、”アドバンス”の3種類の合成EYEから好きなものを選ぶことができる。

 ヒールは生体の眼球と同じ機能を有しており、病気や怪我によって失明した人の交換用パーツとして使われる。エンハンスは、視力を最大1.5まで向上させるほか、写真アプリのようなフィルター機能を備えることもできる。フィルターのON/OFFなど、操作はカプセルを飲むことで行うらしい。アドバンスではさらに、視界の記録や、そのデータをWi-Fi接続で公開するといったことが可能となる。

 EYEシステムを利用するには、まず生まれ持った眼球を手術で摘出し、デッキという脳に接続される人工網膜に換装する必要がある。これがEYEのコネクターの役割を果たす。

 開発者によれば、2027年初頭の販売を予定しているそうだが、現時点ではデッキの詳細や、これを装着した人間の姿に関する情報については何ら公開していない。利用者が自然な容貌を保てるのか、それともサイボーグのような姿になるのかは重要な関心事項といえる。

 また、3Dプリンターが急速な発展を遂げているとはいえ、眼の印刷は予想以上に困難な作業だと思われる。確かにEYEシステムは魅力的だが、この利用を躊躇わせる、あるいは不可能になるような思わぬハードルが持ち上がる可能には留意しておくべきだろう。

 現在、3Dプリンターを利用しての人体代替パーツの開発が急速に進んでいる。今回は眼球だが、他にも耳
、腎臓、血管、皮膚片、骨などが試作されており、近い将来代替えパーツとしての機能を果たすだろう。