「現金支払いお断り」――。ある携帯電話販売店の店頭には、このような看板が掲げられている。スウェーデンの首都、ストックホルムの街中では、たびたび見られる光景だ。

「スウェーデンでは現金を使って買い物をする人が減る一方だ」。そう語るのは、キャッシュレス決済システムの開発を手掛けるシームレス社のピエテル・フレデルCEO。

同国で消費者の決済手段のうち「現金」が占める割合は約41%にすぎない。同じくキャッシュレス化が進む米国でも同55%であることを踏まえると、世界でもスウェーデンが頭一つ出ているとわかる。

大手銀行も束になって参戦

「キャッシュレス決済はもちろんのこと、移動体通信ネットワークを使えば、一瞬でお店の中に来て買い物できる感覚」と、フレデル氏。シームレス社の決済システムは30カ国に浸透しているが、発祥の地であるIT大国スウェーデンにあっては、肩を並べる競合が数社存在する。

さらに最近では、銀行業界もキャッシュレス化ニーズに対応している。2012年に大手6行が協力し、新たなモバイル決済システム「スウィッシュ」を導入。決済時にメッセージを添付できる仕組みなどが好評で、導入後1年間で50万人のアクティブユーザーを獲得している。


来年登場する新生クローナ紙幣。しかし出る幕は少なそう……

銀行までもが「現金排除」に動くのも不思議ではない。スウェーデンでは流通する現金の総額がGDPのわずか3%弱。ユーロ圏の約10%に比べても、きわめて低い。

今や銀行の窓口に備蓄されている現金がほぼゼロ、路上で雑誌を売るホームレスが無線通信でキャッシュレス決済、といったケースも、ごく当たり前なのだ。

来年には新デザインのクローナ紙幣が登場するスウェーデン。紙のおカネのリニューアルは、これで見納めかもしれない。